エピローグ② 三人の生活とコーラルの未来
「えー、最初からそうすると思っていたよー。瑠璃が嫌じゃなければ、それでいいんじゃない?」
最初、翡翠を訪ねたが、彼女はそう言って逆に驚いているようだった。次は藍田に聞いてみる。
「え、最初からそのつもりだと思ってました。瑠璃が嫌でないのなら、そうするといいのでは?」
そして、子どもたち。
「最初からそうだと思ってたー! 瑠璃はアナトにクシェトラで住んでほしくないの??」
他にも、佐枝や屋島を始めとするクシェトラの住人に確認したが、誰もが似たような返事だった。
「……つまり」
もう行き先がない、といったタイミングでアナトが瑠璃に尋ねた。
「一条さえ許してくれれば、僕はクシェトラの住人として認めてもらえるのか」
「……」
瑠璃は黙り込む。と言うのも、彼女の中では皆が許してくれたから、住ませてもらえばいい、という流れを想像していたのだが、なぜだか誰もが最終意思決定を瑠璃に促す。これでは、アナトの居住を許した最終決定者が自分になってしまうのではないか。しかし、自分が言い出したことだ。ここで「やっぱなし」は明らかに不自然だ。
「……分かった。住めばいいでしょ! クシェトラに住みなさいよ!」
「よかったー!!」
喜びを大声で表現したのはアナトではない。どこに隠れていたのか、翡翠だった。
「瑠璃が変な頑固を発症させて、アナトくんのこと追い出しちゃうかと思ったよー」
「何よ、変な頑固って」
「ねぇねぇ、アナトくんはどこにテントを張るの?? よかったら、私のテントの隣はどうかな??」
アナトを放って、二人が話を進める。
「どうして翡翠の隣なのよ」
「どうしてって、一緒だったら嬉しいなって思っただけだよ。ほら、私のテントってみんなのところから離れているじゃん? 寂しくてさー、ちょうど誰かが近くにいてくれたらな、って」
「寂しいって……今までそんなこと一言もなかったじゃない!」
「そりゃあ、私だって瑠璃に言えないことくらいあるよ。だって、弟子に弱いところ見せられないじゃーん」
「それくらい、言えるでしょ。いつも遠慮なく突拍子もない注文つけてくるくせに!」
「もう、どっちだっていいじゃん! それとも、アナトくんに関することは、何でも瑠璃に許してもらわないとダメなの?」
翡翠の責めるようなジト目に瑠璃が怯む。
「別に……アナトくんが良ければいいけど」
アナトの方に視線を向けると、彼は笑顔で答えた。
「僕は住ませてもらえるなら、どこだって構わないよ」
「やったー! じゃあ、私のテントの隣ね! いいよね、瑠璃」
「だから、アナトくんが嫌じゃなければいいって言ってるでしょ」
「やったやった! じゃあ、アナトくん。さっそくテント張ろう! 瑠璃の気分が変わらないうちに!」
「そうだな。僕も、一条の気分が変わって、クシェトラから追い出されたら困る」
翡翠がアナトの手を引いて、どんどん進んで行ってしまう。離れていく二人の背中を見て、瑠璃は何だか居ても立ってもいられなくなってしまった。
「ま、待って! そういうことなら私も移動する! 貴方たち二人が一緒って……なんか心配じゃない!」
瑠璃は慌てて二人の後を追い、その後、クシェトラの隅には三つのテントが並ぶことになった。
ここはコーラル。大地の腐敗が進み、終末が迫る世界だ。人々は仕事や食事にあり付くことも困難で、貧しさを恐れて神が住むと言われるノモスに祈りを捧げる日々を送っている。
しかし、そんなコーラルの運命と日常が、この三人によって変えられる。
……そんな日が、やってくるかもしれないのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
まだまだ伏線を残したままですが、一度ここで終わりにしたいと思います。
マーユリーの目的、アナトの正体、ノモスとは何か。少しでも気になったら、感想や★★★★★による評価をお願いします。
好評だったら続けたいと思います!
本当にここまで読んでいただき、ありがとうございました!




