コーラルにおける職業は
まずは、藍田がホワイトボードに「遺跡」と「ロステク」と書き、さらには「魔術師」と書いた。
「えー、コーラルには数々の遺跡が存在することは、前回の授業で説明しましたが。これらはどれも魔女戦争よりも前の時代に使われていた、何かしらの施設であり、その奥にロステクと呼ばれるメカが眠っていることも珍しくありません。ロステクは私たちの生活を便利にしてくれる可能性があります。だから、できることならロステクを復元して、生活を豊かにしたいところですよね」
遺跡。アナトはそんなものが存在していることを初めて知った。引き続き、藍田の話に耳を傾ける。
「しかし、遺跡はロステクと同等の技術と言える、強力なセキュリティで守られています。便利なロステクを復元するためにも、そのセキュリティを破らなければなりませんが、それにはネットワークにアクセスする知識と、魔力を操る戦闘技術が必要です。その両方の知識を兼ね備えたものが、魔術師なわけですね」
はい、と手を挙げたのはゾルだった。
「他にも、土地の正常化も役目だと聞いたことがあります」
「その通り。ニルヴァナ教の魔術師なんかは、荒れた土地に住む人々から環境に汚染が見られないか耳を傾け、生活に支障が出るほどの異常があれば、ノモスに祈りを捧げ、土壌を正常化します。ただ、人々の願いが正しくない祈りとノモスに判断されないよう、調査と審議も重ねることも、魔術師たちの仕事ですね。だから、皆さんは魔力を学び、魔術師となれば、将来目指せる仕事の幅が増えるというわけです」
今度はアナトが手を挙げ、子どもたちの視線が集まるが、藍田は嬉しそうに「どうぞ」と質問を促した。
「土地の正常化が魔術師の仕事なら、一条のように汚染犯を追うことも彼らの仕事なのですか?」
今度は子どもたちの視線が藍田へ向けられる。
「いえ、瑠璃はかなり珍しい魔女と言えます。汚染犯を捕らえるような危険な仕事を請け負うような、腕の立つ魔術師は中央と呼ばれる地域に集中していますから、地方で正しくない祈りが捧げられたとしても、対応できる者はほとんどいない、というのが今のコーラルの現状です」
「じゃあ、この辺りで大地が腐敗が発生したら?」
「瑠璃たちが存在しない、という前提で話すと……放置ですね。中央の魔術師を呼び寄せるにも、高額の依頼料が必要になりますから。しかも、地方の村が用意できないほどの金額なので、どうしようもないのです」
藍田の説明に、ぐっとアナトの目に力が入る。
「……それはおかしい。コーラルの大地が腐敗してしまったら、僕たちの住む場所がどんどん減ってしまうじゃないか。地方の腐敗であったとしても、中央は何としてでも魔術師を派遣するべきなのでは?」
「アナトくんの言う通りよ」
背後に立っていた瑠璃が言う。
「でも、中央の人間は、自分たちの生活のことしか考えていないのよ。本当なら地方に魔術師を派遣するために、育成や制度を整えるべきだと私も思う。それなのに、彼らは目先の利益を優先して、遺跡の調査や異教徒の排除に魔術師のリソースを裂いてばかりなの。今この瞬間もコーラルは終末に向かっているって、分かっているにも関わらずにね」
子どもたちが瑠璃の説明をどれだけ理解しているのかは分からない。だが、世界の意思が間違った方向に進んでいることは、彼らなりに感じたのか、誰もが黙り込んだ。瑠璃はできるだけ明るい表情を作って言う。
「だからこそ、ここにいる皆には明るい未来を作ってほしいと思っている。そのためにも、皆は勉強頑張ってね!」
空気がやや明るくなったタイミングで、ミラが瑠璃に人差し指を向けた。
「いつの間にか瑠璃が先生みたいになっている! アナトくんがいるから張り切っちゃってさ!」
子どもたちの笑い声に包まれ、瑠璃は顔を赤らめるのだった。
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