翡翠のロステク
「と、いうわけなのよ」
瑠璃が話すこれまでの経緯を翡翠は大人しく最後まで耳を傾けた。そして、本題である協力を依頼する。
「だから一緒にアキーバまで来てもらえないかしら。技師を雇いたいの」
あれだけ瑠璃が渋っていたのだから、断られてしまうのではないか、とアナトは少し心配だった。ただ、数分ではあるが翡翠と言う人間を観察していた限り、気持ちよく承諾してくれそうなものだが……。
「うん、いいよ!」
やはり、快諾してくれた。
「そう。じゃあ、お願いね」
瑠璃は頷くが、アナトが見る限り、まだどこか警戒しているように見える。何が彼女をそうさせているのか、と観察していると、瑠璃が視線に気付いて振り向いた。
「なによ」
「いや、色々と意外だったな……って」
「ああ、翡翠の印象?」
そこではなかったのだが、瑠璃が勝手に説明する。
「師匠なんて言ったから、髭面のおじいさんとかしわしわのおばあちゃんを想像した? 見ての通り、無駄に明るい女よ」
「よろしくね、アナトくん!」
眩しい笑顔で微笑む翡翠は、自分よりもいつくか年下に見えた。
「よろしく、翡翠」
笑顔で答えると、翡翠はなぜか子どものようにはしゃぎ出した。
「ひゃー、いい子そうだね。瑠璃は意外にこういう子がタイプなの??」
「だから、そういうのじゃない!」
「でも、わざわざ拾ってきたんでしょ?? 可愛い、って思ったからなんじゃないの?」
「男を飼う趣味がある、みたいな言い方しないでよ。あくまで協力関係にあるだけなんだから」
瑠璃とのやり取りを見る限り、同世代であることは間違いなさそうだ。自分も自然に振る舞えばいいのだろう、とアナトは少しだけ安心する。そして、明るく親切な翡翠の態度を見ると、瑠璃が協力を惜しんだ意味がやはり理解できなかったが、それはすぐに判明するのだった。
「それにしてもさー」
翡翠は正座している瑠璃を横から抱きしめた。まるでぬいぐるみのように。
「あれだけ自分一人で解決するって豪語してたくせに、結局は私に頼るんだねー。瑠璃は本当に可愛いんだから。よしよし、師匠の私がぜーんぶ解決してあげるね」
子どもを愛でるように頭を撫でられる瑠璃は少しずつ赤面していくが、それが照れによるものなのか、怒りによるものなのか、アナトには分からなかった。
「やめてよ! 子ども扱いしないでって、いつも言っているでしょ!」
突き放された翡翠は、ショックを受けたように目を見開いた後、両手で顔を覆った。
「弟子が反抗期だよぉー! 私の育て方が悪かったのかなぁ。大事に大事に育てたのに!!」
「だから、子ども扱いするな!」
泣くような素振りを見せていた翡翠だが、一瞬で疑うような表情で翡翠に近付く。
「なんで? だって、私からしてみると瑠璃は子どもじゃん。魔女としての腕前も素人みたいなものだし」
「あんたと比べりゃ誰でも素人みたいなものなの!」
なるほど、とアナトは納得した。子ども扱いが嫌で翡翠を頼りたくなかったのか、と。瑠璃はどう見てもプライドが高いタイプだ。師匠とは言え、同年代の女からこの扱いは、自尊心を傷付けられるのだろう。
「あ、そうだ。それはそうとさ、瑠璃に見てほしかったものがあるんだー。珍しいものだから、アナトくんも見て行ってよ」
翡翠はマイペースに話題を変えると、奥の棚から両手で抱えるほどの大きさがある黒い球体を取り出した。先程、藍田が言っていた、翡翠が見てほしいものとはこれのことだろうか。
「じゃーん!! ずっと調子が悪かったロステクのアイテムが復活しました!」
見せびらかせる翡翠だが、どんなに想像力を働かせてもアナトには、それはただの黒い箱にしか見えず、使い道がまるで分からなかった。が、それは瑠璃も同じらしい。
「あー、再起動しても動かないって言ってた、この前のやつね。で、そのロステク、どんな機能があるの??」
興味を持ってもらえたことが嬉しいのか、翡翠は得意げに答える。
「これはですね、私に近付く脅威をいち早く察知して、自動で攻撃してくれる、スーパードロンなのです! じゃあ、さっそく起動してみるから見ていてね!」
ボタンらしいものは見当たらなかったが、翡翠が触れると小さな起動音が聞こえた。そして、ほぼ同時に筐体の中心部分で、赤い光の点滅が始める。まるで何かを警告しているようだ。
『脅威を感知しました。距離ゼロメートル。攻撃を開始します』
ロステクがふわりと宙に浮いたかと思うと、中心部辺りから円筒状の突起物が現れる。それは誰が見ても銃口で、危険な存在を攻撃するためのものだが……その先にはアナトが座っていた。
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