#1-26 イースターマーケット//第6話
ぎゅっと私の手を握る2人の手にはすごく力がこもっていて、直輝に関してはちょっと痛い。
「あのね、おれ、すっごい嬉しい!みなみんと一緒に踊れたら絶対楽しいと思うんだよね!それに初めてみなみんの声ちゃんと聞いた、めっちゃ可愛いよ。もっと喋ってほしい!」
「なおくん、みなみんが痛がってるわよ。気持ちはわかるけど、一旦手を離しましょ。」
興奮しているのかぶんぶんと手を振りながら言うから腕がもげそうだ。
気づいてくれたくるみんが言うと、2人はパッとほとんど同時に手を離す。
少しコンプレックスでもある声だったけど、直輝に褒められると可愛い素敵な声なんじゃないかって思えてくる単純な私がいる。
「ごめんね!ついテンション上がっちゃって。」
「わたしもみなみんとも一緒にアイドルできたら楽しいだろうなと思ってたから、すっごく嬉しい!」
2人が小さく飛び跳ねたりして子供みたいに喜んでくれるから、高揚していた私の気持ちが更に高まっていく。
持っていることも忘れかけていた鞄をくるみんと直輝に返すと、一気に体が軽くなる。
気持ちの状態も相まって飛べそうな気分だ。
「そうだ、みなみんも“RePeat’s”に入ろう!返理も歓迎してくれると思うよ!」
「いいわねそれ!ユニットが同じだと一緒に行動しやすいし、何より絶対楽しいもの。」
この曲をやりたい。このイベントに出たい。こんなパフォーマンスをやりたい。
あれこれ楽しそうに話す直輝とくるみんの会話が私にはついていけなくなってきた頃、パチパチとまばらな拍手が鳴離出す。
私達も習って拍手をしながらステージの方を見ると、ちょうど双子ちゃん達がステージに上がって来たところだった。
ふわふわとした可愛らしいピンクの衣装に身を包んだ桜花ちゃんと桃花ちゃん。
同じようなピンクのドレスだけれど、桜花ちゃんは桜色、桃花ちゃんは桃色とちゃんと2人らしい違いがある。
そんな2人の間に立っているのは、2人と色違いの暗い青色のドレスに身を包んだ女性だ。
サーモンピンクのセミロングの髪を青い薔薇を模した髪飾りが飾っている。
黒いリップの塗られた薄い唇。
ネイビーブルーの瞳を際立させている暗いアイシャドウ。
ダークな雰囲気の濃いメイクと衣装がよくあって目立っているが、決して本人が衣装に着られてはいない。
ミステリアスな雰囲気と魅力がひしひしと伝わってくる。
あの人が“Blossoms”の3人目なのだろう。
桜花ちゃんと桃花ちゃんはかなり緊張しているように見えるが、あの人は堂々としている。
双子ちゃん達曰く3年生らしいので、これまで培ってきた経験や実力が彼女に自信を与えるのだろう。
「ーーみなさんこんにちは。私立来々星学園から来ました、“Blossoms”です。イースターマーケット、楽しんでいますか?」
蒼い瞳を一度瞬いてから、先輩は口を開く。
淡々とした口調は厳しさを感じさせるが、意外にもやわらかい声色で恐怖や威圧感は感じない。
黙ってステージを見上げている私とは違って、直輝とくるみんは「はーい!」と大きな声で返事をしている。
2人の声がステージまで届いたようで、3人は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとうございます。私達のステージでもっと盛り上げていきたいと思います!」
優しそうな柔らかい笑顔で先輩は言う。
ビシっとポーズを決めた数秒後、音楽が流れだした。
踊り出した3人が同時にターンする。
花びらを模したスカートがふわりと広がった。
きっと上から見たら本物の花のようで綺麗だと思う。
直輝とくるみんの時と同じような明るいメロディー。
2人の曲は元気いっぱい!と言う感じだったけど、“Blossoms”の曲は穏やかな優しさを感じる。
アイドルらしく笑顔で踊っているが、双子ちゃん達の表情はまだ少し硬い。
……大丈夫かな?
直輝とくるみんも心配しているようで、「頑張れー!」と叫んでいる。
アイドルのライブというよりもスポーツ観戦みたいだ。
中央で優雅に踊っている先輩がくるりと後ろを向いた。
ここからではほとんど見えないが、双子ちゃん達に何か手振りをしている。
踊りながらもそれを見た双子ちゃんは吹き出すように小さく笑った。
もう一度くるりと回ってこちらを向いた先輩は何事もなかったかのようにしているが、双子ちゃん達の表情は随分柔らかくなった。
先輩が両手を広げると、双子ちゃん達がそっくりな2つの声を重ねて歌い出す。
数歩前に出て目立つ位置にきた2人だけど、緊張した様子は全く感じられない。
きっとあの一瞬で先輩が緊張をほぐしたのだろう。
ずっと自分より後ろにいた2人の様子に気を配り、元気づけられるのはかなりすごいんじゃないだろうか。
サビも後半に入り、3人の歌声が重なった。
桜花ちゃんと桃花ちゃんの息がピッタリ合っているが、先輩も同じくらい息が合っている。
双子ちゃん達の歌とダンスは先輩に比べたら辿々しいけど、それでも私にはプロと同じくらい上手に見える。
何より弾けるような笑顔から2人自身が楽しんでいるのが伝わってきて、こちらまで嬉しくなってしまう。
「……ありがとうございました。」
曲が終わり、静かに先輩が言った。
それに合わせて双子ちゃん達が深々と礼をする。
先輩はもう一度小さな声で「ありがとうございました。」と呟いてから、同じように礼をした。
ステージから降りていく3人はとても満足そうに笑っていた。
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