#1-23 イースターマーケット//第3話
赤いテントのアクセサリー屋さん、黄色いテントの多肉植物屋さん、水色と白のストライプ柄のテントはパステルアートを売っていて、淡いピンク色のテントは編みぐるみ屋さん。
真っ黒なテントは何かとおもったら、占い屋さんなんてものもあった。
広い公園いっぱいに並ぶカラフルなテント。
商品のバラエティーも豊かで、見ているだけで面白い。
エコバッグ屋さんもさっき見つけて、ゆるキャラのようなかわいい動物達が描かれた白いエコバッグを買った。
「あっ、このテントでポーチがたくさん売ってる!素敵~。」
くるみんがピンクの水玉柄をしたテントの下から手招きしてくる。
木製の商品棚の上には、遠目からもわかるほど色とりどりの商品がところ狭しと並んでいる。
布小物のお店のようで、形も色も、大きさも様々なポーチやアクセサリーが並んでいる。
「わーポーチいっぱいあるよ!くるみん、これとかどう?」
「それ、すごく可愛いっ!けど、もう少し大きいのがいいのよねぇ……。」
「これくらいの」と宙に四角を描くくるみんを横目に見ながら、私も商品棚に目を落とす。
四角や丸、キャンディ型なんて珍しい型のポーチが綺麗に整列している。
カラフルで混雑した印象と一定間隔をあけて綺麗に並んでいる光景が目に入って、なんだか不思議な感じだ。
いらっしゃいませと声をかけてくれたこの店の人であろう女性は、小さなタッセルのピアスと柔らかそうなターバンで顔回りを飾っている。
ポーチの隣に並んでいるアクセサリーと同じものだ。
何となくアクセサリーを眺めていると、ひとつだけ異質なものが混ざっていることに気がついた。
ネックレスもイヤリングも、すべて布の飾りなのにたった1つのヘアピンだけ、布が少しも使われていなかった。
他のものは布で包まれた太いパッチン止めなのに、これだけは細身のアメリカンピンになっているみたいだ。
飾りの丸い石はパールのように艶々した白い石で、表面部分は半透明なガラスで覆われている。
ほぼ無意識に手に取ると、太陽の光が当たって虹色に輝いた。
光の当たり方が違うのかなんなのか、角度によってピンク色になったり水色になったりして面白い。
「……それ、綺麗だね……!」
横から直輝に声をかけられたことに驚いて、バッと勢いよく顔を上げてしまった。
私の大袈裟すぎる反応に直輝はクスリと笑う。
夢中になってくるくるとヘアピンを回していたから気がつかなかったみたい。
「夢中になってたんだ?綺麗だもんね~。」
私の隣で同じようにじっとヘアピンを見つめる直輝の瞳はキラキラと輝いていて、ヘアピンと同じくらい綺麗だ。
「これ、角度によって色が変わるんだ!面白いねっ。」
直輝の瞳と同じ色にもできるだろうか。
そう思ってヘアピンを動かしていると、直輝がわあ!と子供のように無邪気な反応を示した。
「俺もやりたい!」という直輝にヘアピンを渡すと、瞳をより一層輝かせてヘアピンをじっと見つめている。
少しの間そうしてから、直輝は空いている片方の手でボディバッグを開けて財布を取り出した。
「すみません、これくださーい!」
呼びかけると、お店の人は私達の顔を見てにっこりと笑って直輝からお金を受け取った。
直輝、これ買うんだ。
男の子でも、前髪留めたりするのかな。
ふと、ごく自然に直輝が私の手首を掴んだ。
決して強くない、優しい力で私の手を持ち上げると、手のひらの上にさっき買ったヘアピンを置く。
「はい、プレゼント!」
太陽のように眩しくて無邪気な――それでいて優しい暖かさの笑顔を浮かべて、直輝は嬉しそうに言う。
……プレゼント!?私に?
そんなの勿体ない。
折角の可愛いヘアピンなのに、似合わない私がつけたら台無しだし、何より直輝のお金なんだから、私なんかのためじゃなくて自分とか、彼女……とかに使うべきだと思う。
私が慌ててヘアピンを返そうとしても、直輝は受け取ってくれない。
「貰ってよ。俺が持ってても仕方ないでしょ?みなみん、それほしいのかなって思ったんだけど……違った?」
散歩に連れて行ってもらえなかった子犬のようにしゅんとして、直輝はじっと私のことを見つめている。
「俺、みなみんと友達になれて、すっごく嬉しかったんだー!だからその記念ってことで、受け取って?」
そういわれたのが嬉しくて、つい頷いてしまった。
遠慮していたものの、確かにほしいな、と一瞬思ったのも事実だし、なにより直輝プレゼントしてくれたことが嬉しくて、頬が緩んでしまった。
「――――みなみん、可愛いよ!」
…………え?
唐突に直輝が言った言葉に私はきょとんとくびを傾げてしまう。
可愛い?今、私のニヤケ面を見て可愛いと?
「みなみんが自分に自信持ってないのは分かったけどさ、みなみん、すっごく可愛いよ!笑った顔は特に可愛い!だからね、そのヘアピンも、すっごく似合うと思うし、もっといっぱい笑ってほしいな。」
直輝が今までとは少し違う、柔らかい笑顔を浮かべる。
いつもより何倍も大人っぽく見える表情に、ドキッとしてしまう。
「1人で笑えなくても大丈夫、俺が笑顔にさせてあげるから!このヘアピンもみなみんに笑ってほしかったから……えっと……。何が言いたいのかわかんなくなってきちゃった。」
少し照れたように笑った直輝は「そうだ、くるみんどこいっちゃったんだろ!?探しに行こう!」と言って、辺りを見回す。
少し離れたところに見えたくるみんの後ろ姿を追おうとして――もう一度私の顔を見ていった。
「今は無理でもいいから、いつかそのヘアピンつけて笑ってるみなみん、俺に見せてね?」
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