#1-12 期待の新星//第2話
お久しぶりです。
長らく待っていてくれていた人がいたら、待たせてすみません、そして、ありがとうございます!
昼休みを楽しく過ごした私は午後の授業にも必死についていき――――授業が終わった瞬間、ぶっ倒れた。
もう本当に、無理すぎる……。
事情で急遽時間割が変更になったとかで、6時間目がダンスレッスンだった。
私は勿論ダンスなんて知らないし、出来ない。
人生で1番辛い授業だった。
比喩とか大袈裟に言ったとかではなくて、マジで。
「みなみーん、大丈夫?」
私とは違って余裕で授業を終え、元気な直輝が軽く私の頭を叩いている。
……まだ1日目なのにデジャヴだなあ。
「だから辞めましょってばなおくん。……お疲れ様、みなみん。ダンスレッスンはハードだから、疲れちゃうのも無理ないわ。」
心なしか少し疲れが感じられる声で言いながら、くるみんが私の肩を優しく叩いてくる。
もそもそと顔を上げると、みんな帰る用意を始めていた。
私程疲れている人はいないけど、みんな結構疲れているみたいだ。
「みなみん、帰りは電車?」
私の顔を前から覗き込むような姿勢の直輝が聞いてくる。
こくりと頷くと、今度はくるみんが「南の方の駅から?」と聞いてくる。
またこくりと頷く。
すると何故かくるみんは嬉しそうに笑い、直輝は逆に表情を暗くした。
「やった!わたしの家、南駅の近くなの!だから一緒に帰りましょ。」
「……おれは北駅から電車ー。みなみんと一緒に帰りたかったなあ……。」
因みに、北駅やら南駅というのは、この学園の生徒の中で話す時の略称のようなもので、本当の名前じゃない。
芸能科でも普通科と同じ名前で、少し安心感を覚える。
「なおくん、本当にみなみんの事好きね?わたしは一緒に帰りたかったなんて言ってもらった事ないけどー?」
「だってくるみんは元々一緒に帰れないの分かってるんだから残念がっても仕方ないじゃん。」
くるみんがちらりと直輝を見ると、直輝はきょとんとして答える。
くるみんは少しつまらなそうに「まあね。」と言うと、にこりと私に笑いかけてきた。
「みなみん、一緒に帰りましょ~!」
――――友達と、一緒に帰る――――。
友達のいない私は、勿論そんな経験はない。
くるみんと一緒に帰る……考えただけで嬉しい。にやけてしまいそうだ。
病は気からというのか少し元気が出た私は、1人ドキドキしながら鞄に持って帰る教科書類を詰め始める。
くるみんも自分の席で帰り支度を始め、直輝もそれに習う。
一緒に帰るの、すごく嬉しいのだが……私喋れないよ?
話のネタが尽きてしまうかもしれない。
『みなみんと一緒に帰っても楽しくない。』って言われたらどうしよう?
急に不安になってきた。
「どうしたの?忘れ物?」
「おれも校門まで一緒に帰るー!」
手が止まっていた。慌てて首を左右に振って鞄を閉める。
「じゃ、行こうか。」
そう言って歩きだした2人を追うように教室を出る。
わいわいと下校中の生徒達で賑わう廊下を何気ない話をしながら通り、階段を降りる。
階段の踊り場には小さな掲示板があって、近日中に開催されるイベントやライブのポスターが貼ってある。
まだ今学期始まったばかりなのに、生徒が参加する外部イベントが幾つもあるようだ。
3年生や2年生が昨年度から準備していたのだろうか。
カラフルなポスター達の横を通り過ぎ、昇降口で上靴からローファーに履き替える。
同じく靴を履き替えた2人と肩を並べて、校門まで続く長い桜並木を歩く。
私の茶色いローファー、直輝の赤いスニーカー、くるみんの小さなリボンがついた黒いローファーが並んでいる。
「明日の昼休みは、3人で王魔先輩のライブ見に行こうよ!」
「いいわね!王魔先輩のライブ、すっごくかっこいいからみなみんにも見てほしいわ。」
直輝の提案にくるみんが顔を輝かせる。
今日2人が絶賛していた人か。確かに気になる。
でも今日やっていたからって、明日も見れるかな?
「王魔先輩、暫くはライブするって言ってたから、明日もいると思うよ。」
「確か『王魔先輩がユニットを組んだ。』っていう噂が校内ネット掲示板にあったけど、軽音部のライブだったわね……。やっぱり噂は噂ってことかしら。」
「校内とはいえネットだし……。」と呟くくるみんだけど、待って、色々聞きたい。
校内ネット掲示板は知っている。
芸能科の生徒だけがアクセスできる校内ネットの中にある掲示板で、良くも悪くも様々な噂があるらしい。
……くるみん、ネット掲示板見るの?
知り合って間もない私の勝手なイメージだけど、悪い噂とか嘘とかも沢山あるネット掲示板を、くるみんが見ているイメージはなかった。
自分の事悪く書かれてたりしたら、凹まない?アイドルだし。
私は影が薄いから、悪い噂が生まれたりはしなかったけど。
あと、軽音部ってどういう事?
普通科は意味が分からない程部活動が活発&自由で、沢山部活があったが、芸能科は対象的に部活動はないはずだ。
理由としては簡単。
学業と芸能活動を両立させている芸能科の生徒に、部活動までする時間がないからだ。
なのに、軽音部?
部活動が存在しないはずの此処来々星学園芸能科で、軽音部?
「……あっ、軽音部って言っても、ホントの部活じゃないけどね。」
「普通科には沢山部活があったのよね?みなみんも部活してたでしょ?ちょっと羨ましいわ。」
……羨ましいって言っても、本読んでただけだけどね。
ちゃんと「部活してる!!」って言い張れるような部活じゃなかった。
「王魔先輩達の軽音部は通称“非公式軽音部”。部活だって言い張ってるけど、実際は芸能科に部活なんて存在しないよ。」
「“軽音部”って名前でユニット申請するのもありだけど、王魔先輩達はしてないわね。その結果、生徒会や先生達からは“問題児集団”って呼ばれてたりするの。ライブ企画書もなにも提出せずに、許可なくライブしているし。」
“非公式軽音部”って、なんかすごいなあ……。
なんのために非公式の軽音部を作ったのかは分からないけど。
ユニットじゃあ駄目だったのかな?
“非公式軽音部”の話をしていると、あっと言う間に校門だ。
緊張しながら歩いた朝よりも何倍も早く感じる。
「じゃあ、明日は王魔先輩のライブを見に行こう!また明日!」
「また明日ーなおくん。」
真っ直ぐ上に伸ばした右手をバタバタと振りながら走っていく直輝に、私とくるみんは控えめに胸の前まで上げた手を振る。
その後は駅まで、くるみんと2人で帰った。
私は聞く専門だったけど、くるみんは色々な話をしてくれたから不都合はなかった。
芸能科の話や直輝達“RePea's”の話。
それから、くるみんの家族の話、これまでのくるみんの学校生活の話。
――――その途中で少しだけ、くるみんの暗い表情が見えた。
くるみんはずっとアイドルらしいキラキラの笑顔を浮かべていたから、少し驚いてしまって……。
同時に、それは私が知ってはいけないような事な気もしたし、知るべきである気がした。
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