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#1-10 転入生//第10話

「――――俺は火鳥 返理(ひどり かいり)。“RePea's(リピーツ)”のリーダーで、生徒会副会長だ。直輝と関と一緒とは、都合がいい。丁度お前に用があったんだ。」


 そう言って真面目そうな先輩――――火鳥副会長は薄く微笑んだ。

 本当に生徒会役員だった。生徒会長さんじゃなくて副会長さんだったけど。


 “RePea's”って、直輝とくるみんのユニットだよね?

 直輝とくるみんのユニットメンバーの、もう1人の人か。


「返理、みなみんに用事?生徒会の事?大変だねー。」


「お前達はどうして一緒にいるんだ?まあ同じクラスだろうし、どうせ直輝が絡んでいったんだろうが。」


「あったりー!」


 呆れたような表情を浮かべる火鳥副会長に、直輝は同級生のようなノリで話す。

 何で直輝は先輩(しかも真面目そうな副会長さん)にタメ口なの?

 これが同ユニットの距離なのかな。


「関、いつも直輝の暴走を止めてやってくれてありがとうな。」


「いえ。今回はわたしもみなみんと友達になりたかったので。」


 あれ、でもくるみんは普通に敬語だ。

 同じユニットとして活動しているだけあって親しそうではあるけど、先輩後輩って感じの距離感だ。


「みなみん、紹介するよ!この人は火鳥 返理!」


「俺はもう自分で自己紹介したけどな。」


 火鳥副会長を指さして、嬉しそうに直輝が私を見る。

 火鳥副会長もああ言っているが嫌ではなさそうだ。

 むしろ嬉しそう。


「生徒会副会長をやってるくらい優秀な、おれの幼馴染!すごいでしょー?」


「何でお前が誇らしげなんだよ。」


 エッヘンと胸を張っていう直輝の、火鳥副会長が苦笑しながらツッコむ。

 幼馴染だから、こんなに仲がいいんだ?

 直輝とくるみんのやり取りもすごく仲がいいのが伝わってきたけど、この2人のやり取りも楽しそう。


「……それで、返理先輩はみなみんに何か用があるんですよね?」


「ああ、そうなんだ。」


 くるみんに聞かれ、「いただきます。」と小声で呟いて箸を手に取った火鳥副会長は視線を私に向ける。

 火鳥副会長と入れ替わるように箸を置いた直輝が、満足そうな顔で「ごちそうさまでした!」と手を合わせた。

 ――――直輝、食べるの速すぎじゃない?

 ラーメン2杯を私やくるみんより速く……。


「山田 未無未――――山田でいいか?」


 話を切り出そうとした火鳥副会長は律儀にそう聞いてくる。

 私がこくこくと頷くと、「ありがとう。」と薄く微笑んだ。

 厳しそうな見た目だけど、優しい人っぽい。


「山田に言っておきたい事が幾つかあるんだ。……それと、頼みたい事が。」


 ――――ん?

 言っておきたい事があるのは分かるよ?生徒会としてね?

 でも、頼みたい事って何!?

 私に何か頼まれても、何も出来ないよ?

 やっぱり“スカウト制度”のせいで私の事を過大評価しすぎているんだろうか。

 恐るべし、スカウト制度……。


「山田、お前はもしかすると望んで芸能科に来た訳ではないかもしれない。普通科の方がよかった、芸能活動なんてしたくないと、そう思っていたりするか?」


「えっ……。そうなの、みなみん?」


 直輝がとても悲しそうな瞳で私を見つめてくる。

 その姿はまるで飼い主において行かれた子犬のよう。

 ――――もしかするんだけど、そんな顔で見られたらそんな事言えない。


 私が苦笑交じりに首を横に振ると、直輝は「よかった~。」と嬉しそうに、ほっとしたように息をついた。

 スイッチがあるんじゃないかと思うくらい跡形もなく表情が変わる。


「やりたい事、なりたい職業がなくても、取り敢えず何か初めてみることだ。後から方針を変える事もできるし、1度学んだ事は無駄にはならない。何もやりたい事がないなら、アイドルをすすめる。この学園は、アイドル生き易いように出来ている。」


 一定のペースで箸を口に運びながら、淡々と火鳥副会長は静かに話していく。

 機械的とも言える。美味しくないのかなと思ってしまう。

 アイドルが生き易いように出来ていても、私にはそのアイドルという生き方が生き辛い。

 アイドルでも芸人でもアナウンサーでも何でもあまり(かなり)気が乗らないが。


舞台(ステージ)に上がったり、人前に立つのが嫌ならばステージスタッフなど裏方の職業にするという手もあるにはある。だが稼げるTPやGPは少ない。」


 私的にはそっちの方がいいけど、GPが貯まらないと駄目なのか。

 優秀な人ならやって行けるって事かな?


「どの道をいくのかは山田の自由だし、その道を卒業後も歩むのか決めるのもお前だ。……だが俺としては、山田にはアイドルになってもらいたい。」


 ――――え?

 今、アイドルになってほしいって言いました!?

 無理無理無理無理。私に出来ると思う?

 やっぱりスーパーアイドルの咲菜さんにスカウトされたから、私にアイドルが出来ると思うのか。


 詐欺みたいですがすみません……。

 私にそんな事は出来ません。


 たった1人や2人の前でも――――初めての友達になってくれた直輝とくるみんの前でも、ろくに声を出す事も出来ない私に、大人数の前で歌ったり踊ったり出来る訳がない。


「返理先輩からそんなことを頼むなんて……生徒会で何かあったんですか?」


「…………いや、そういう訳ではないんだ。会長ら好昇 咲菜の名があるからかお前にはアイドルをしてほしいようだがな。俺はどちらかと言うと個人的な――――。」


「――――――聴こえる。」


 ぶんぶんと首を横に振るだけの私と違ってお弁当を片付けながらくるみんが聞く。

 火鳥副会長の答えを遮って、今まで静かにしていた直輝が呟く。

 ――――――聴こえる?


「……何が聴こえたの、なおくん?」


 不思議そうに首を傾げる訳でもなく、優しく子供の発言を聞いてあげる母親のようにくるみんが聞く。

 直輝はじっと外の遠くを見て瞳を星空のように輝かせる。


「聴こえるよ、素敵な歌が!――――王魔先輩の歌だ!」



星ほしーなー?

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