表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

抜け殻の有効活用

 この前、西之島の研究番組を見たんだ。


 西之島っていうのは、海底火山で生まれたばかりの新しい島でね、溶岩石と火山灰でできてるんだって。

 そんな不毛の大地で、どうやって生命活動が行われているんだろう――そんなことを、いろんな科学者たちが注目しているんだってさ。



 その島自体はね、灰色一色で、生き物の気配が全くない孤島なんだ。


 海底火山で誕生した島だから、地面も高温なんだって。

 当然、草木どころか土すらない。


 そんな灰色の島を上空から撮影した映像を見たときにね、心の底からこう思ったんだ。


 なんて美しいんだろうって。



 自然がありのままの姿で、何も手を加えられずに自然のままで存在している。


 高温と有毒ガスによって、人間が居続けることのできない、死の大地。


 青い空と、モノトーンの大地と、血みたいに褐色に染まった海。


 そのコントラストに魅入られて、目を離せなくなっちゃったんだ。


 なんて気高くて美しいんだろう。

 そんなふうに思ったんだ。


 人を寄せ付けない厳しさって、すごく美しいと思うんだ。


 なんていうか……決して手の届かない存在に恋焦がれるような感情に近いものが胸にあふれたんだよね。



 ちなみに人間にとっての死の島は、海鳥にとっては楽園なんだって。


 外敵の存在しないその島では、海鳥たちは珍客を全く恐れない。

 調査ロボットでも人間でも。


 まるでモーリシャスのドードーみたいに。



 でね。

 すごく感動したのがね、海鳥の死体の下から、土ができていたこと!


 すごいよね。


 海鳥の死骸に虫や微生物が(たか)って、死骸の有機物を分解するんだって。

 そしてその死骸の下には、ほんのわずかだけれど土ができていたんだ。


 ひとまずの仮説らしいけど、感動しちゃったよ。


 その生命のサイクルに。

 死と誕生が密接にリンクしてることに。


 なにかの死はなにかの新たな生命の誕生に、ちゃんとつながってる。


 なんて素晴らしいんだろう。


 そう感動する一方で、人間ってこの環の中から外れちゃってるんだなっていう寂しさも感じたんだよね。



 ふと思ったんだ。

 人を火葬にするのって、すごくもったいないなって。


 せっかくの貴重な有機物の塊を、焼いて骨にするのってすごくもったいないし、エネルギーの無駄遣いだよなって。


 私の死体、なにかに使えないかなぁ。

 なーんて思っているうちに閃いたんだ。


 そうか! 私が死んだら、死体を西之島にほっぽらかしてもらえばいいんじゃね?

 海鳥よりも体積あるし、それなりの量の土が作れるじゃね? すげー! 西之島研究に貢献できるかも!


「……俺は……いつだってあの島と共にある……ぐふ」


 みたいな最期! うはー! 胸熱じゃね! 楽しくなってきた!(←バカ)


 一種の献体みたいな?

 ある種の臓器(人体)提供?

 それとも究極の研究ボランティア?

 それとも寄付?


 なーんてテンションアゲアゲになりながら、風呂に入って……いや、ちょっと待てよ……って思ったんだ。


 せっかく断絶された環境で、生命の誕生を研究してるっていうのに、どこぞの馬の骨とも分からない人間の死骸なんか放り込まれたら悪質コンタミ以外の何物でもなくね? って。


 研究者にとってコンタミは害悪だ。

 マジで本当にどっか行け的な存在だ。


 西之島を研究してる人たちにとって、私の死骸なんざ『マジで余計なもの放り込むんじゃねえよ、殺すぞワレ』的なゴミだろう。

 死体はすでに死んでるから殺せないのは残念だけど。


 ぶっちゃけ素性も分からないような人間の死体なんて何が寄生してるか分からないし(あ! 言っときますけど私は変な病原菌は飼ってませんよ。一般的な常在菌だけですよ!)、せっかくの純粋無垢な生態系が壊れてしまうかもしれない。


 それは良くない。

 そりゃあ私でも怒る。

 他所でやれと言われればまったくもってその通り。諦めるしかなさそうだ。



 でももし、西之島の土になろうぜツアーとかやるんだったら応募しようと思う。

 募集待ってます。


 まあ西之島は無理だとしても、やっぱりどうせ死ぬならどこかで野垂れ死にするのっていいなって思ってる自分がいるのも事実。


 どうせなら土になるまで放置されたい。


 せっかく有機物の塊なわけだし、昨今サステナビリティなんて言葉も流行ってるわけだし、死後の人体の有効活用方法はいろいろと選択肢があるわけだし、そのまま焼却するのはやっぱりもったいないと思う。

 火葬場のエネルギー使用量の削減に協力してみたい。


 ……え? 臓器提供はどうかって?


 うーん、私としては人間のパーツになるくらいだったら、土とか肥料になる方が憧れるなあ。


 もしかしたら、自然に還りたいのかもしれない。もう人間でいることに疲れちゃったのかな……なんてね。


 なんだっけ、FFの星に還る的なやつ。

 ライフストリーム的なやつ。

 そう、それそれ。そういうやつ。なんかいいよね。


 バレットの兄貴と志が一緒なのかも。

 あの人、あんなにやかましい人だと思わなかったよ。昔のポリゴン時代のゲームの方がいいよね。映像がきれいなのはいいんだけど、無駄にキャラクターに力入れすぎで、あざとさひどくて萎えるよね。

 

 ん? なんの話してるんだろうね。



 ていうかさ、ちょっと前まで庶民なんかさ、いちいち墓なんかなくてさ、共同の穴に放り込んで済ませていた時代があったんだよね。

 塚なんて呼ばれてる場所がそういうところの跡地みたいだけど。


 塚ブーム、また来ないかな。

 リバイバル的なやつ。

 リメイクでもリバースでもいいけど。



 やっぱイマドキ墓より塚っしょ☆ みたいなムーブ到来しないかなあ?


 みんなで仲良く土になろうぜキャンペーンとかあったら応募するのになー。


 あれ? なんの話かって?


 要はさ、墓なんていらないんだよなあっていう話かな。

日曜の朝にするような話じゃなかったね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ