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300年引きこもり、作り続けてしまった骨董品《魔導具》が、軒並みチート級の魔導具だった件  作者: 空地 大乃
第二章 仲間との再会編

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第319話 シドの町からの旅立ち

「わがままばかり言ってごめんなさいですぅ」


 メイがアレクトを連れて戻ってきた。

 アレクトは私の前でぺこりと頭を下げ、申し訳なさそうに言った。

 いつもよりずっと静かな声。けれど、その瞳の奥にはしっかりとした意志が見える。


「……アレクト。私も言い方がきつかった。君の気持ちを考えていなかったかもしれない。もし――」

「大丈夫なのです」


 私の言葉を遮るように、アレクトは小さく息を吸い込み、まっすぐに顔を上げた。


「私にはこのギルドを守る義務があります。だからマスターのことは、お二人にお任せします。ですからどうか……マースマスターのこと、よろしくお願いしますぅ」


 言葉遣いも口調も、普段よりずっと丁寧だった。

 その姿を見て、私は思わず微笑んでしまった。

 全く――そんな顔をされたら、何も言えなくなるじゃないか。


「わかった。私とメイで、マースを助け出せるよう尽力するよ」

「お任せください、アレクト様」

「はい! 信頼しているですぅ!」


 小さく拳を握り、いつもの明るさを取り戻したように見える。

 ……けれどその笑顔が、少しだけ力を込めすぎている気がして、胸が痛んだ。


 こうして、私たちは魔導ギルドをアレクトに託し、旅立ちの準備を進めた。


 翌日、商業ギルドを訪れると、フレームと娘のレンズが応対してくれた。

 太陽の光が窓から差し込み、ギルドの大理石の床に反射して白く輝いている。


「娘のレンズから話は聞いていますよ。しかし、今のエクサスに行きたいとは……。正直、あまりお勧めは出来ませんがね」


 フレームは腕を組み、苦笑を浮かべた。

 その視線の奥には、商人としての計算よりも、私たちを案じる思いがにじんでいる。


「こちらにも理由があってね。どうしても会いたい人物がいる。だから紹介状の件、お願いしたい」

「ふぅ……まぁ、貴方のこれまでの貢献を考えれば、断る理由はありません。

 紹介状は書かせて頂きます。ただ――くれぐれもお気をつけを。お二人に何かあれば、悲しむ者も多いのですから」

「あぁ、わかっている。無茶はしないさ」

「本当にそうならいいのですがね」


 フレームが軽く肩をすくめ、机の引き出しから封蝋の施された手紙を取り出した。

 赤い蝋には商業ギルドの紋章が刻まれている。


「既に準備しておきました。これが紹介状です。どうぞお持ちください」

「ありがとう。恩に着るよ」

「そう思うなら、必ず無事に戻ってきてください。この商業ギルド――いえ、この町の利益のためにも、ね」


 フレームがにやりと笑った。その冗談めいた言葉の裏に、本気の心配が見える。


 出口まで送ってくれたレンズが、少し寂しそうに微笑んだ。


「父は……本当にお二人を心配しているんです。そこはわかっていただけると嬉しいです」

「もちろんさ、レンズ。私もメイもわかっている。大丈夫。アレクトのことも気になるし、向こうの件が片付いたら、また顔を出すよ」

「はい! またお元気な姿を見せてくださいね!」


 レンズの瞳がきらきらしていて、別れの寂しさを押し隠すようだった。

 私も小さく会釈をして、メイと共にギルドを後にした。


 その後、お世話になった人たちのもとへ立ち寄り、挨拶回りをした。

 アダマン鍛冶店のメイクは「頑張れよ」と私の肩を叩き、息子のクリエは「再会までにもっと腕を磨いて見せます!」と笑顔を見せてくれた。


 宿屋ではキャロルとウレルが話を聞いて涙目になっていたが、二人で更に宿を盛り上げてくれると約束してくれた。宿の元の主人は「へ、いなくなって清々すらぁ」なんて言いつつも焼き立てのパンを持たせてくれた。


 最初会った時はとんでもない二人だったが、真面目に働いている内に二人の気持ちにも変化が現れているようだ。


 ジャニスは、引き続き魔導ギルドの事を気にかけてくれると優しく答えてくれた。


 別れを惜しむ声と、背中を押してくれる声が入り混じる。


――思えば、この町で本当に多くの人たちと関わってきたものだ。


 夕方、私たちは魔導ギルドに戻り、最後の挨拶を済ませた。


「二人がこの町を出られるなんて、まだ信じられません」


 事務員のブラが潤んだ瞳で言った。

 彼女はこのギルドの帳簿を一手に引き受けてきた頼れる存在だ。


「パパとママも同じ気持ちだと思います」

「ガード商会にもお世話になったからね。でも、今生の別れってわけじゃない。問題が解決したら、また戻るよ」

「うぅ、わたしも……さみしい~です~」


 泣きそうな声を上げるスロウ。その横で、クイックがまくし立てるように言った。


「まったく急すぎるよ! スロウもだけど、私だってびっくりしてるんだから!

 淋しいんだから、時間ができたら絶対顔出しに来てよ! 孤児院のみんなも――!」


 賑やかで、温かくて、少しだけ切ない。

 そんな空気がギルドの中を満たしていた。


「あの、アレクトさんは残るのですか?」


 一人の少年が尋ねると、アレクトが笑顔で頷いた。


「うん。私はこの魔導ギルドのマスター代わりだから、一緒には行かないんですぅ」

「――そうだな。アレクトには、しっかりここを守ってもらわないと」

「はい! 仕事も一杯ですから、張り切るですぅ!」


 力こぶを作るように腕を上げるアレクト。

 ……もちろん、腕にコブなんて出来ていなかったけれど、その明るさに皆が笑った。


 そして――私たちは、別れの挨拶を終えて魔導車に乗り込んだ。


「それじゃあな、アレクト。しっかり頼んだぞ」

「はい。お二人が無事にマスターを連れて戻ってくるのを、まってるですぅ!」

「はい。必ず。それでは皆様も、どうかお元気で」


 メイの運転する魔導車が静かに加速し、見送りに出てくれた皆の姿が遠ざかっていく。

 ギルドの旗が風に揺れ、アレクトの声が小さくなっていった。


 これで――シドの町とは一旦お別れだ。

 背後に残る笑顔の数々を胸に刻みながら、私は前を向いた。


 これから向かうのは、自由商業都市エクサス。

 マース、そしてカミラ。

 彼らの待つ場所へ――。

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