背徳の下拵え3
電車で二駅。
都会につく。
活気に満ち溢れた街模様だ。
駅には人が吸い込まれ吐き出される。
僕たちもそんな中の三人だった。
スマホのナビを参照にケーキ屋にたどり着く。
とりあえず今日のおススメ……苺のタルトと紅茶のセットを頼む僕。
ルシールはモンブランと紅茶。
黛はショートケーキと紅茶。
「………………でも……よかった……の……?」
と紅茶を飲みながらルシール。
「何が?」
「………………華黒お姉ちゃん……」
「まぁ人として最低ですわな」
自覚はある。
自認は出来ないけど。
「理解しているあたりがタチ悪いですね」
字面だけ見れば痛烈な皮肉だけど、黛の顔に張り付いているのは悪戯好きな小悪魔のソレだ。
「まぁどうにかご機嫌は取るからルシールは気にしなくていいよ……と云ってルシールが気に病むのを止められないとは思うけど」
「さっすがお姉さん。ルシールの事わかってますね!」
「黛もね」
ハイタッチ。
「………………あう……」
とルシーる。
「………………私も……そういう快活さが……欲しかったな……」
「何言ってんすか。唯一お姉様に認められている美少女が」
「………………華黒お姉ちゃんに……認められてる……?」
まぁルシールにはわからない事情だろう。
黛に僕らの過去は話してないけど、華黒のルシールを見る目に優しさが込められていることくらいは察せるらしい。
こういうことには聡い女の子だ。
ショートケーキをアグリ。
僕もタルトをパクリ。
「だいたいルシールはズルいですよ。あんなに嫉妬深いお姉様の警戒網をヒョイと抜けてしまうんすから」
「………………そう……なの……?」
ルシールはこっちに視線をやった。
「まぁね」
僕も頷く。
「華黒はルシールにだけ友愛の感情を持っている。これは特筆すべきことだよ」
「ですよね?」
「ですです」
僕と黛が意気投合。
紅茶を飲む。
「………………むぅ……」
説明してほしいのだろう。
「ええっと……ねぇ……」
言葉は慎重に選ばねばならない。
「ルシールは他人が怖いでしょ?」
「………………うん……」
「実は華黒もそうなんだ」
「………………お姉ちゃんが……?」
信じられないらしい。
まぁ普段猫被って良い人を気取ってるから他人には分かり辛いだろうけど。
「ま、色々あってね」
ふにゃふにゃとした言葉でそこは流す。
こんなケーキ屋で話すには重すぎる。
「華黒は本気で自身と僕以外の人間が死ぬことを願っている。これ、誇張でもなんでもないから」
「マジっすか?」
さすがに黛も瞳孔を開いた。
まぁ幼稚ではあるよね。
「信じられないのも無理はないけど事実だよ」
世界には僕と云う光があって……それ以外は光源が眩しすぎて見ること叶わないってのが華黒の根幹だ。
「少ない例外がルシール」
「………………ふえ……私……?」
「うん。華黒はルシールのことをよく知っている。よく認識している。だからルシールには優しいんだよ」
「………………そう……なんだ……」
「黛さんも時折お姉様が怖いですからね」
「………………そうなの……?」
「底冷えする瞳で睨みつけてくるんすよ」
あー……わかる。
「それなのにルシールには可愛い妹を見る目で眺めるからどっちがお姉様の本質なのかわからなくって」
「どっちも華黒だよ」
それだけは事実だ。
「少なくともルシール以外の恋敵は拒絶の対象だからね」
「もう一人いるでしょう?」
やっぱり?
「黛は聡いね」
「そうじゃなきゃ今頃野犬のエサにされていますので」
大げさに肩をすくめてみせる。
「………………誰……?」
「千夜寺鏡花」
「っすね」
「鏡花の場合はもうちょっと事情が複雑なんだけどね。それでも確かに華黒やルシールに通ずるモノがある」
「………………鏡花ちゃん……」
生きていることが辛い。
それは華黒も……そして僕も同じだ。
心的外傷として刻み付けられたスティグマは夜毎に悪夢を再生する。
その度に僕と華黒は跳ね起きて薬を飲んで落ち着かなければならないのだ。
華黒にとって人間とは真白か他人かの二極化でしかない。
僕や華黒も鏡花水月のようにトラウマを分離できればよかったんだけどねぇ。
ぼんやりそう思いながらタルトを一口。




