バレンタイン当日2
三学期特有のクインテットが登校する。
バレンタインデーに美少女四人とイチャイチャしている男子生徒なぞ嫉妬を超えて猛殺の対象だろう。
僕自身有難がっているわけでもないので、こればっかりは想像するしかないのだけど。
それに悪意をぶつけられるのには慣れている。
無論華黒には言わないけど。
教室につくと自身の席に着く。
引き出しに一口サイズのチョコ駄菓子……千ロルチョコと『ハッピーバレンタイン。臼井』と書かれたメモ用紙が。
少し離れた席の臼井さんを見やるとパッと顔を赤らめてそっぽを向かれた。
照れるならしなければいい……とは思うけど心付けは嬉しくもある。
僕は千ロルチョコの包みを解いて口に放り込む。
キャラメル味だった。
甘い女の子アピールだろうか?
「てい」
首筋にチョップが入った。
漫画みたいに気絶できれば学校サボれたのにね。
「裏山屋上」
統夜だった。
「僕がチョコあげよっか?」
「そんな趣味は無い」
「ん」
僕もです。
「その千ロルチョコは誰からだ?」
「臼井さん」
「何個目だ?」
「黛、ルシール、鏡花ときたから四つ目だね」
「男子に代わって成敗いたす」
「…………」
多分代わってない。
それは私怨って言うんだよ?
「後は姉貴か……」
「先輩は貰う側じゃないかな?」
「去年を顧みてそう言えるか?」
「うーむ……」
一理ある。
「まぁ月の無い夜には気をつけな」
ニヤニヤと意地悪く笑う統夜だったけど、
「有り得ない」
とは言えなかった。
ゾクッとしたのは冬の寒さのためか。
それとも……。
考えるだけ無駄だったので思考を放棄する僕だった。
*
放課後。
僕と華黒とルシールと黛と水月の五人でアパートに戻ると、年齢の離れた二人の美少女が居た。
「やあ真白くん」
「どうもお兄様」
昴先輩と白花ちゃんだった。
「まったく兄さんは……」
妹の呪詛が聞こえてきたけどスルーで。
「何の用ですか?」
愚問だけど問わねば先に進めない。
「無論チョコを渡したくてね」
「私もです。お兄様」
「とりあえず中に入りましょか。多分……というか確実に手狭ですけど」
僕とセクステットヒロインは僕と華黒の城に吸い込まれた。
華黒の淹れてくれたチョコを飲みながら僕は言う。
「で? どんなチョコをくれるんです?」
回りくどいのも面倒なのでさっさと切り上げたかった。
いや、チョコをくださるのは純粋に嬉しいんですけど華黒の瞳に敵意と害意と殺意が黒く深く淀んでいくのが見て取れたので、
「気にしていないよアピール」
をせねばならなかった。
そんなわけで冷蔵庫に入れていた鏡花のオペラと、私室の勉強机に置いていたルシールのお手製チョコクッキーを食べながら僕は話を進めるのだった。
これだけチョコを食べれば夕食はいらないかな?
「私はこれだ」
と僕と華黒に紙袋を差し出す。
中に入っているのはプリンだった。
ただし黒い。
「私オススメ製菓店のバレンタイン限定チョコプリンだよ」
「ありがとうございます」
「まぁ受け取ってあげましょう」
華黒は何で上から目線よ?
突き放した言い方はらしいっちゃらしいけど。
「で? 白花ちゃんは?」
「ショコラティエに頼んで作ってもらったミルクチョコです」
シンプル・イズ・ザ・ベストって奴だ。
「ありがと。ショコラティエさんにも感謝してるって伝えておいて」
「はいな」
蓮華のように白花ちゃんは笑った。
「むぅぅぅ……っ」
いい加減華黒が限界だ。
「はい」
パンと一拍。
「では今日は解散。これ以上は流血沙汰になりかねない」
「ではルシール。行きましょうか」
「………………うん……またね……お兄ちゃん……」
「華黒先輩それではまた」
「ではね。真白くん。華黒くん」
「それではお兄様、また」
各々が帰宅して、パタンと玄関が閉じられた。
華黒が危なっかしい目で僕を見つめて言った。
「やっと二人きりですね、お兄様……」
蛇に睨まれた蛙ってこういうことか。




