99.ライオン像
それから急ピッチで地下通路の調査準備が終わっていった。
まぁ、これはイスカミナの助言を元に道具を揃えるだけだからな。
品物も鉱山や穴堀用でいいので、特に入手しづらい物もないし。
あとはコカトリス姉妹から聞き出した、大まかな地下の地図も完成した。
それを元に冒険者達も、森の探索でいくつか出入り口を発見した。泉のそばにあった出入り口と同じようなモノらしい。
そうして一週間がまた過ぎて――。
準備が整った俺達は今、勢揃いして泉のほとりに来ていた。
俺やステラやナナ、レイアといった冒険者。
それとウッドやイスカミナだな。
天気も良く、晴れ晴れとしている。
だが太陽がまぶしく照らしても、ほどほどに寒くなってきた。
マフラーをするほどでもないが、厚着はしたい感じだ。
皆の前に立った俺は、一言だけ挨拶することにする。
長い話をしても、ろくに聞いてもらえないしな。前世で俺も朝礼とかの長い話は全然覚えてないし……。
こほん、と皆を見渡しながら咳払いをひとつする。
皆はぴしっと綺麗に整列していた。
「よし、安全に気を付けて……調査を始めるぞ!」
「「おおおお!!」」
「くれぐれも怪我のないように!」
「「おおおおおおおっー!!」」
冒険者達は大盛り上がり。
まぁ、かなり待たせたからな。
やっと調べられるということで、盛り上がりもするだろう。
……周囲の雰囲気は冒険というより、工事現場だが。テント張りした所に色々とつるはしとか置かれているし。
そうして俺達は地下通路に入っていった。
まず感じたのは冷たさだ。
光が届かないので、やはり地上より一段階は寒い。
匂いは――ほのかに土の香りはするが、不快ではない。ちゃんと石造りしてあるおかげだろうか。
高さは……事前に分かっていたが、なんとかウッドも行けそうだな。
「高さ的にウッドはギリギリだな……」
「ウゴウゴ! じゃんぷしたりしなければ、だいじょうぶ!」
「頭をぶつけないよう、気を付けてな」
「ウゴウゴ、きをつける!」
通路は大人三人分くらいの幅がある。なんとか大人が歩いてすれ違えるくらいだから、あまり余裕はないが。
先頭を歩くのはステラだ。
……俺の作ったバットを持っている。
ふむ、やはり光がないと全然見えないな。
前世では地下やトンネルでも何らかの灯りがあったが、ここはそういうのはない。
松明は相当な量を用意してあるが……。
俺は魔力を集中させる。
【月見の苔】
光る苔がぶわっと通路に生まれて――松明なしでも歩けるくらいにはなった。
しかし光る苔は数時間しか持たない。
まぁ、コスパは非常に良いのだが……。
「ふむふむ……足場はしっかりしてますね」
「柔らかいと何か問題だったか?」
「踏ん張れないと思い切りスイングできないかな……と」
「……なるほど」
あまり考えてなかったが、そういうのもあるか。スイングは普通、グラウンドでするもの。
足場が悪いことはあまり考慮されない。
雨だと試合は中止だしな。
そのままゾロゾロと俺達は地下通路を進んでいく。
しばらくすると、光る苔の先に例の防衛型ゴーレムが見えてきた。
台座の上にライオンの頭部の像。
どことなくマーライオンを連想してしまう。色も乳白色だし。
ライオン像に近づきすぎると、雷球攻撃が始まる。
残念ながらコカトリスの着ぐるみでもダメなので、正面突破しかない。
ステラが高揚をにじませながら、前へと進む。
俺達は一旦、ストップだ。
「……では、行ってきます」
「ああ、気を付けてな」
ステラが一人、悠然と歩きながらバットを構える。光る苔に照らし出される彼女は幻想的でさえある。
「……えっ、木の棒で何を?」
少し慌てた声を出したのは、隣にいるナナ。
ちなみに昼なのでコカトリスの着ぐるみを着ている。
そういえば、ステラのスイングで敵を倒すのは初めて見るのか。
「危ないんじゃ――」
「まぁ、見ていろ」
バチバチとライオン像から魔力が弾ける。
ふむ、かなりの魔力だな。
ライオン像の口が光ったかと思うと、紫の雷球が放たれていた。
刹那、ステラも立ち位置を修正して、バットを振る。
バチッ!!
ステラの魔力が込められたバットが、雷球の芯を捉える。
「せいっ!」
そのままステラはぐっと力を入れて、最後までバットを振り抜いた。
雷球はそのまま、正確にライオン像へと打ち返される。
バチィ……!!
ライオン像の口に当たった瞬間、猛烈に魔力が弾け飛ぶ。
……高密度の魔力の弾は実体があるというが、この雷球はそんな感じだな。
見ると、ライオン像からはぷすぷすと黒煙が上がっている。
ナナが呆れたような、驚きの呟きを漏らす。
「め、めちゃくちゃな……」
「Sランク冒険者なら、あれくらい出来るんじゃないか?」
「無理ですっ!」
そうなのか……。
Sランクだからと言っても、そこは違いがあるらしい。
そして雷球を打ち返されたライオン像は……動かないな。
続けて雷球を撃ってくることもない。
ステラがバットを構え直して、
「……どうしたのでしょう。次の球は?」
「倒したんじゃないか?」
「えっ、あの一発でですか……」
いや、さっきの雷球はかなりの魔力だったぞ。まともに喰らったら痺れるだけじゃすまなさそうだ。
「少し近付いてみますね……」
言ったステラがステップを刻みながら前進する。まぁ、ステラならあの雷球はそのまま避けられそうだしな……。
ライオン像の隣に立ったステラが、すっとライオン像を撫でる。触れて中の構造を調べているのかな。
「中の魔力回路は……壊れましたね。危険はありません。意外と脆かったです」
「ふむ……よし、前進だ!」
「「おー!」」
俺はふと思った。
ステラが絶対に負ける訳がないと思っている所がある。
この雰囲気……なんだか始球式みたいだな。
◇
それからウッドやステラ、他の冒険者達は地下通路を進んでいく。
俺とレイア、ナナ、イスカミナはライオン像の調査だ。
……レイアが帽子の紐を捻ると、目からまぶしい光が照射される。
ぺかー。
懐中電灯並の光だな……。今だとありがたいが。
俺はレイアのシュールなコカトリス帽子を見ながら聞いてみる。
「いつの間に、そんな機能が……?」
「残念ながら、まだ機能と言えるほどではありません。ごく短時間しか持ちませんので」
「それでも中々のモノじゃないか」
「ナナにも手伝ってもらいましたが、とりあえずはここまでです」
「ほう、ナナも協力してくれたのか」
ナナの着ぐるみの目は光ってないが……。
手伝っただけで、自分の着ぐるみには搭載しなかったらしい。
「そういう約束ですからね。レイアも村とザンザスを行ったり来たりだし」
「はぁ、早く完成させたい……!」
ぺかー。
……ま、まぁ……明るいから良しとしよう。
イスカミナが顔を近付けて、ライオン像をじーっと見ている。
「どうだ、ライオン像は? なんだか綺麗に見えるけどな」
近付いてよくよく見ると、埃を被っているわけでもない。かなりピカピカの乳白色である。
「年代は古いですもぐ。壁と同じくらいですもぐ」
「というと数百年は前か……。素材的には?」
ナナもライオン像に顔――コカトリスの顔を近付ける。
……モール族とコカトリスがライオン像を見つめている。
ちょっとシュールだな……。
ぺしぺしと叩いたり、下から上から覗き込んだりしている。
なんだかライオン像が食べられる前に見えてきた。
少しして、ナナが震える声で言ってくる。
「僕の見立てでは、雷鉱石と大理石を魔法的に融合させた石かな……? これ自体が魔力を蓄えて、放つ仕組みです」
「あまり聞いたことがないな」
俺は首を傾げる。
魔力ある素材同士は相性があって、簡単にはくっついたりしない。特に強い魔力を持つほど、その傾向が強くなる。
「……僕も初めて見ました。もし僕の推測が当たっているなら、何気なく設置されてるけど――大発見です!」
お読みいただき、ありがとうございます。







