838.にがり調達へ
「海水はなんとかするとして……にがりを作った経験はどうだろうな」
海水だけあっても、にがりまで精製できなければ豆腐は作れない。
現代的日本人の俺では無理だ。
「それでしたら――海水があれば、私で精製できます!」
「おおっ……!」
「さすかあさまぴよ!」
いや、しかしにがりまで?
だがステラの雑学範囲は広い……というか、豆腐を作るぐらいだからな。
にがりも作れるのか。
大皿にレッドドラゴンの爪を盛りつけ、ステラがリビングへと戻ってきた。
「ちゃんとした海水があればですが……!」
「ウゴ! なんか出来そうな気がしてきた」
「冬至祭に合わせて、新メニューの投入だな」
もし豆腐が大量生産できれば、麻婆豆腐――おっと『ふわふわ真紅』は良い料理だ。
この辺りでは豆腐のような食感は珍しく、目新らしいに違いない。
前世の日本でも『ふわふわ真紅』は大人気だった。
レッドドラゴンの爪に赤いうどん、それにふわふわ真紅。
うん、辛めの料理は癖になるしな。コンセプト的にもまとまっているだろう。
「明日にでもジェシカに聞いてみるか……!」
◇
翌日、書類仕事を片付けてから俺はジェシカに会いに行った。
午前の九時半、彼女は今の時間レインボーフィッシュの監督をしているはずだ。
水槽の置いてある倉庫に到着すると、ブラウンが出迎えてくれた。
「にゃーん。おはようございますにゃん!」
「おはよう、ブラウン。レインボーフィッシュは順調か?」
「にゃ! 鱗の質と生産スピードは順調に推移してますにゃん!」
びしっとブラウンが敬礼し、倉庫で作業しているニャフ族を見渡した。
レインボーフィッシュの鱗は栄養価の高い肥料だ。
これ自体も現金で売れるうえ、村の農業生産を支える重要物資である。
今も5人のニャフ族が鱗を砕き、皮袋に小分けにしていた。
「それはいいことだな。それで、ジェシカは奥か?」
「はいですにゃん。イスカミナと色々、実験してますにゃん」
イスカミナも来ていたのか。
彼女も熱心に村を発展させようとしてくれているな。
奥は実験室で、黄金のレインボーフィッシュもここにいる。
倉庫区画を横切り、奥へと向かう。
そこではイスカミナとジェシカが熱心に机の上のガラス瓶を観察していた。
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