837.豆腐材料
「ぴよ! おいしそーぴよ!」
ディアがぱちっと目を開け、羽を掲げた。
「エルフの間でも人気の料理なのですが、問題がありまして……」
「……豆腐か?」
俺も前世では豆腐が好きだった。
しかし製法についてほとんど知識がなかったので、この世界ではノータッチだったのだ。
今の日本人で豆腐を作れる人もほとんどいないだろうしな。
「ええ、材料があれば作れるのですが」
「そ、そうなのか?」
割とレアなスキルの気がする。
ステラはなんでもできるな……。
「旅の中で練習いたしました……!」
背中しか見えないが、ドヤ顔なのが見て取れる。
王家と会うのは気が進まないが、豆腐作りは誇らしげなステラだった。
「わふ。でも難しそうなんだぞ。トーフゥー作りは」
ちょっと発音が違うが、俺は気にしないことにした。
「大豆は俺が生み出せるが……にがりは無理だな」
ぼんやりと海水からできる程度しか知らない。
それ以外の知識はなく、にがりを作るのはとても無理だ。
「海水から作らないといけませんが、手に入りませんからね。ナールたちからも無理でしたし」
まぁ、ここから海はかなり離れているからな。
鍋から火の手が上がる中、ステラが鍋を振るっている。
だんだんと香ばしい匂いが漂ってきた。
この匂いは何度も食べた、レッドドラゴンの爪だな。
「ウゴ、それなら……ジェシカは?」
「ジェシカ……? いや、それは……ふむ……」
ジェシカは杖から魔法の水を出していた。
冷水と湯を出せるのは知っているが、海水は確かめていない。聞く機会もなかったしな。
しかし言われてみれば、海水も水の一種だ。
塩分濃度やミネラルを操作できるなら可能性はある。
「わふー。あの面白い杖から出る水なんだぞ?」
「もしかしたら可能かもな」
「ウゴ、それなら村でも作れる!」
よし、ジェシカの水か。
にがりさえできれば、豆腐――ひいては麻婆豆腐もできそうだ。
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