830.モネット
モネットとナナは留学時代からの友人であった。
今でも手紙でのやり取りは続き、時折消息を知らせてくれる。
「ふんふん、みゃ……」
モネットは友人からの手紙を食い入るように読み進める。
ところがある程度読んだところで、モネットは大きくのけ反った。
「みゃ! あれは本当だったのかみゃ……?」
「何か大変なことが書いてありましたか?」
モネットが手紙を読んでのけ反ることは珍しい。
側近が声をかける。
「英雄ステラが現れた、という噂は知っているみゃ?」
「少し前からそのような噂がありますね。近くの森の国でも……」
「ナナの手紙はザンザスからみゃ」
「なんと……! それでは、まさか……」
「そうみゃ、別件で行ったときに確認をしたみたいみゃ」
「それで、真偽のほどは……」
側近も真剣な面持ちで前のめりになる。
「本物、ナナはそう判断しているそうみゃ」
「それは……本当にあの闘神、ドラゴンを投げ飛ばして倒した者、リヴァイアサンを素潜りで倒した者、不眠不休で四日間戦い続けた者、史上最強のエルフ、英雄ステラ様でしょうか?」
「大半は誇張みゃ」
「失礼しました、数々の伝説がありますゆえ……」
英雄ステラの名は東方の諸国に響き渡ってる。
様々な伝説はあるが、真実からは程遠いだろうというのが現代人の感覚だ。
「本物のステラ様であれば……やるべきコトがあるみゃ」
尻尾を振りながらモネットは机の上の筆に手を伸ばした。
「モネット様、ちょうどアルネスト王国から記念式典の招待が来ています」
「それは実に好都合みゃ」
モネットが筆にインクを染み込ませ、手紙を書こうとしたところで――モネットの王家の指輪から黄金の光が放たれ始めた。
「みゃっ!」
光が放たれると同時に、モネットがさっと指輪を反対の手で覆う。
モネットが指輪に魔力を送り込むと、指輪の光は徐々に小さくなっていった。
「大丈夫でございますか……?」
「……問題ないみゃ」
モネットは身体を振るわせながら答えた。
王家の指輪には古代の悪しき魔力が封じ込められている。封印を維持するためには、所持者が魔力を送り込み続けなければならない。
「その指輪も、なんとかしませんと……!」
「無理みゃ。この国で最も魔力が強いのは、私みゃ」
モネットは首を振った。
エストーナ王国において、モネットは随一の魔力を持っている。
「モネット様……」
しかしそれでも、封印が大変な負担であることを側近は理解していた。
生暖かい秋風が吹き、雲が月を隠し始める。
モネットは白い尻尾をふにっと揺らした。
「みゃ……。これは私の責務みゃ。英雄ステラの末裔としての、義務みゃ」
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