776.ザンザスへと
翌日、ナールとアナリアは早馬でザンザスへと向かっていた。
ニャフ族の乗馬は体格的に不向きである。
しかしアナリアの体に覆われる形でナールもうまく馬に乗っていた。
栗毛の大きな馬をアナリアはうまく扱っている。
「ふぅ、たまには馬にも乗らないと!」
「にゃー、アナリアは馬乗りができたのにゃ!?」
「ええ、意外だったでしょう? 私は薬師ギルドで一番乗馬が上手いですから!」
「知らなかったのにゃ!」
ヒールベリーの村からザンザスの間の道はすでに整備されている。
なるべく平坦にされ、石も取り除かれているのだ。そのため高速で行き来ができた。
「ポーション作りには材料が不可欠、しかし移動時間が……勿体ないですからね!」
「やっぱりポーションにゃん!」
「さぁ、飛ばしますよー!」
「にゃああーん!」
土煙を上げながらアナリア達は軽快に道を飛ばしていく。
やがて夜になり、道の側にある大樹の家に馬を留める。
他にもいくつか馬車が留められており、中は明かりが灯っていた。
ここはエルトの作った休憩所で、ザンザスまでの道中に何ヶ所も用意されているのだ。
「今日はここに泊まっていきましょうか」
「そうするにゃー」
扉を開けるとわいわいとした賑わいがある。
一階はレストランになっているのだ。ナールが番頭役のニャフ族に声をかける。
「お邪魔するにゃー」
「ボス、おひさにゃん。馬で来ましたのにゃん? お世話しておきますにゃん」
「栗毛の引き締まった馬にゃ、よろしくにゃ」
「はいですにゃー」
「よろしくお願いしますね」
ナールは何度もこの休憩所を使っている。
宿泊所のスタッフもブラックムーン商会なので、気兼ねはいらなかった。
空いたテーブルに二人は座り、軽くご飯を頼む。
他のテーブルでも酒を飲んだり、食事を楽しんでいた。
健康サラダの盛り合わせを食べながら、二人は話をする。
「そうですね、到着したらさくっと素材を――」
隣のテーブルに座っていた中年の商人が、ナールへこそっと話しかける。
「ナール、聞きました?」
「にゃん? 何かいいネタがあるにゃ?」
どうやらこの商人とナールは顔見知りのようだった。
「エール一杯分くらいのネタですかね」
「しっかりしていますね……」
「それくらい払うにゃ」
ナールが銅貨を手渡すと、商人は滑らかに話し始める。
「いやね、黒書騎士団が頻繁に動いているようで」
「騎士団がにゃ?」
騎士団は国家の命令で動き、冒険者では手に負えない魔物討伐等を担っている。
騎士団は全員が魔法使いという超武闘派組織でもある。
「黒書騎士団――調査を主体とした騎士団でしたっけ」
「にゃー。国内を飛び回っている騎士団にゃね」
それゆえ団員の離婚率が高い騎士団という知識もあったが、ナールは黙っていた。
「ま、何にせよ貴族様の子飼いですからね。気を付けるに越したことはないですよ」
急ぐ騎士団の邪魔は無用のトラブルになりかねない。
ナールは感謝しながら、
「わかったにゃ、ありがとにゃ」
とサラダをもしゃもしゃ食べながら答えるのであった。
道中、それ以外に危ないことはなく……。
翌日の午後、アナリア達はザンザスへと到着した。
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