707.ステラの時代
不思議なことに、コカトリスたちは人間を排除するようなことはなかった。これには諸説ある。
単にコカトリスが人間を仲間扱いしているだけかもしれないし、人間はダンジョンの魔力を吸収するわけではないので、脅威とはみなさないのかもしれない。
とはいえ、多難の時代は村の建設から何百年も続いた。魔物を引き寄せるザンザスのダンジョンを、いかなる貴族家も長く保持することはできなかった。
そして、ついにザンザスを支配しようとする貴族家はいなくなった。結局のところ、貴族の誰もが割に合わないと思ったのである。
次の絵は寂れた村の絵だ。疲れた冒険者風の人々が荷物を背負っている絵もある。
「そして無主の時代がやってきました。この頃、ザンザスの住人は100人から多くても300人ほどだったと思われます」
この無主の時代は50年ほど続き――大転換が訪れる。英雄ステラの登場によって、すべてが変わったのだ。
「ぴよ……かあさまの絵ぴよー!」
「わっふー! きらきらなんだぞー!」
「うぅ……!」
それまでの絵や展示品の雰囲気から一転して、きらきら大枠にステラの絵がどーんと描かれている。
その絵画のサイズはなんと3倍、額縁には金銀宝石があしらわれていた。もちろんそばにある銅像の造りの細かさもこれまでの比ではない。
絵の説明文のレリーフの文章も5倍ほどの長さになっている。
「……すごいな」
まさにザンザス市民がステラに対してどのように崇敬の念を抱いているか、それがひと目でよくわかる。ステラがごにょごにょと俺の着ぐるみに耳打ちする。
「ちょっと差がありすぎるように思いますが……」
「まぁ、それも意図的なものだろうし……」
そこからはステラの活躍を大宣伝する内容だ。ザンザスのダンジョンを安全に行き来する方法、様々なサバイバル術と戦闘術。
ステラは誰とも組みはしなかったが(というよりよそ者のステラと組むザンザスの人間がいなかったが)、技術を隠すこともしなかった。
「私はそこまで深く考えて生きてきたわけではありませんが……」
ステラがコカトリスのお腹をなでなでする。
「ぴよー」(なでなでー)
お礼にコカトリスがステラの頭を撫でる。
「ふふふ……」
それからステラの遺した技術でザンザスは大きく発展した。ダンジョンから安全に素材を持ち帰れるようになり、集まる魔物も効率的に討伐できるようになったのだ。
もちろんステラの愛するコカトリスもだんだんと温厚で危険性のない魔物と周知された。今ではザンザスのマスコットとして……冒険者ギルドの長であるレイアの帽子にもなっている。
「ぴよ。勉強になったぴよー!」
「わふー。こんな歴史だったんだぞー」
まぁ、後半はほとんどステラとコカトリスの話題ではあったが。だが絵や銅像もセットだとやはりわかりやすい。
「では、歴史のコーナーはそろそろ終わりにして、そろそろお昼ごはんにしましょうか」
レイアが中庭のテラスを手で指し示す。そこにはすでに山盛りのサラダが用意してあった。コカトリスたちが目を輝かせる。
「「ぴよー!」」(待ってましたー!)
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