50.調べに行こう
翌朝。
俺、ウッド、ステラの並びで寝てみたわけだが……。
思いの外、ちゃんと睡眠は取れた。
やはりウッドの体で物理的に見えないのは大きいな。
もぞもぞと起きて、ディアの入った籠を見る。
「すや……ぴよー……すや……ぴよー……」
よく眠っているな。
ちなみに目の錯覚でなければ……うん、ちょっと大きくなっている。
元々、ひよこの成長速度は早いらしい。
なんと一週間で体重が倍になるのだとか。
ウッドは寝ている最中、少しも動かない。
太陽光がそれなりに出てくると動き出すのだ。
木なので、俺達の睡眠とは違うのかもしれない。
「う~ん……あふ、おはようございます……」
ステラが起き出してきた。
彼女も目を擦りながら身を乗り出し、ディアの様子を確認する。
小声でステラが感想を言う。
「……ちょっと大きくなってますね」
「ああ、成長が早いな」
ステラの目にもそう見えたか。
と、ディアがぱっと起き上がる。
「ぴよ! おはよー!」
「ああ、おはよう」
「おはようございます……!」
「ウゴ!? おはよう!」
ウッドも起きたな。
というか、起こされたみたいだが……。
ディアは朝から元気いっぱいに羽を広げる。
「とうさま、かあさま、おにいちゃん……なでてー!」
こうして俺達の新しい一日が始まったのだ。
軽く身支度をして、リビングに降りる。
ウッドが朝ご飯を作っている最中、俺とステラはディアに水浴びをさせていた。
と言っても、桶にちょっとぬるま湯を張っただけだが。
コカトリスは水浴びが好きだと言うが、どうだろうか。
「ぴよー、ふぁ……きもちいい!」
ぱちゃぱちゃと跳ねるディア。
……かわいい。
「熱かったりしないか?」
「ぴよ! だいじょうぶー!」
「羽の裏まで綺麗にしましょうね……」
ステラがこちょこちょとディアの羽を綺麗にしていく。
「じゃあ俺は背中だな」
こちょこちょ。
さらさら。
ふわふわの毛も濡れてはいたが、手触りは少しも悪くない。
上等な絹を触っているようだ。
「ぴよー! きれいになったー?」
「ええ、ばっちりですよ」
「こっちもだな」
「とうさま、かあさま、ありがとうぴよー!」
やはりディアは水浴びも好きみたいだな。
俺も前世の記憶からか、風呂に入らないと死にそうになる……。
ふむ、しかしこの速度で成長すると指では追い付かなくなりそうだ。
櫛がいるな……。
ナールから色々と買っておかないと。
それから朝ごはんのサラダと季節の果物を食べた俺は、冒険者ギルドに手紙を書くことにした。
用件はコカトリスクイーンのこと。
書こうかちょっと迷ったが、いまさらだ。
すでに孵化計画は村中が知っているし、大きくなればそれこそ物理的に隠しておけない。
まぁ、ザンザスの迷宮関係でもあるからな。もう俺達の家族だけれど。
手紙に書いたのはその報告と、あとひとつ。
情報収集の要請だ。
村にいる冒険者達もコカトリスクイーンのことは知らなかった。
ディアは相当レアな存在ということだ。
コカトリスを基準に考えればいいのだろうが、もっと情報が欲しい。
そうすると適切なのは、やはりザンザスの冒険者ギルドということになるだろう。
なのでその要請を書いたのだ。
さて、冒険者ギルド経由で何かわかるだろうか……。
◇
その後、俺は大樹の塔へ出掛けた。
定例会議というやつだな。
生産計画の確認が主な議題になる。
アナリアとナールがテテトカから聞き出した数値が、紙にまとめられている。
もちろん生産したものの売上もまとめられている。
ふむ、おおむね順調なようだな。
アナリアが用紙を読み上げる。
「えー……というわけで、生産と販売は順調なのですが……」
「……これ以上の生産は無理そうか」
「ええ、色々な生産に使う薬草類がこれ以上、増やせません。ザンザスからの買い付けも限界に近づいています」
「ヒールベリーの村の生産は特殊ですからにゃ」
その通りなのだ。
草だんごや肥料、ポーション類、ドリアードへのおやつ……薬草類の消費は多い。
そして薬草類は需要が増えても、供給はなかなか増えない。
必要な薬草のほとんどが栽培できず、採集するしかないからだ。
もちろん俺の植物魔法で薬草も生み出せるが、魔力がある薬草類は大量に用意は出来ない。
というか、それって根本的に解決してないしな……。
「ぼくたちのいた森の奥はどうですー?」
鉢植えに埋まったテテトカが言う。
テテトカは会議でもこのスタイルだ。
仕方ない。人間社会のささやかな慣習よりもドリアードの士気の方が大切だからな。
「あそこか……。冒険者達も旧ドリアードの住み処より奥へは行ってないんだよな」
「はい、採集はその手前までですね」
「んにゃ……あの奥にも薬草はいっぱいあるのかにゃ?」
「ありますよー。でもぼくたちも、あそこから日帰りできるところまでしか行かないですけど」
「ふむ……」
採集に長けた冒険者はリスクを嫌う。
彼らにとって採集は日常生活であり、怪我などもっての外だからな。
そのため行くのは、一度踏み込んだ旧ドリアードの家まで。その奥へは行かないのだろう。
現状、採集は出来ているわけだしな。
「よし、今度探検隊を作って森の奥へ行こう。休憩所もいくつか作り、冒険者の採集活動の幅を広げる」
「それはかなり大がかりですね……」
「俺の【大樹の家】を森で使えばいいだけだ。それこそ森の中でも、すぐに家が作れるぞ」
「ああ! そうでした! なんて素晴らしい……!」
「んにゃ、エルト様ならではの方法ですにゃ」
「ただしこの村と違って、地盤の問題は気を付けないとな。あとは変なところに【大樹の家】を作ると、生態系の破壊に繋がるし……」
【大樹の家】はかなりの重量がある。そもそもの地盤が軟弱だと崩れてしまう。
この村は調べ終わって安全だが、新しく作るには調べてくれる人がいる。
あと【大樹の家】は今ある生態系を押し退けてしまうからな。
考えなしに作りまくると、悪影響が出る。
「探検隊へそういうことに強い人を入れましょう。早急に取りかかります」
「資材ならお任せくださいにゃ。すぐに準備できますにゃ」
「ああ、よろしく頼む。準備ができたら出発だ」
さてこれで話し合いは終わりかな?
ディアはどうだろう……。
昼寝しているだろうか。
そんなことを考えていると、アナリアとナールがこちらを見ている。
どうかしたのだろうか?
「何かまだあったか?」
「あ、いえ……! ディア、かわいかったな……と思いまして」
「高貴な毛でしたにゃ」
「そうか、そう思うよな」
「ええ、一日経ちましたけどどうですか?」
「ちょっと大きくなったぞ。あと水浴びも好きみたいだな。今朝のことなんだが……」
それからしばらく、ディアの話で盛り上がった。
ふむ、もしかして俺ってかなりの親馬鹿かもな。
でも悪い気はしないのだった。
◇
一方、ザンザスの冒険者ギルドでは大騒動が起きていた。
原因はエルトの送った手紙である。
コカトリスクイーン。
それは冒険者ギルドの上層部でさえ伝説の存在だったのだ。
それが誕生していた。
この事態を受けて、冒険者ギルドのマスターレイアは素早く決断を下す。
早急に調査しなければならない、と。
もふもふの加減。
成長速度。
あとなんかそう、気が向けば脅威度とか何とか……。
コカトリス検定一級所持者、通称ぴよ博士のレイアは信頼できる冒険者を呼び寄せる。
Aランク冒険者、百諸島の魔女、水の神に愛された者――。
「……Sランクの緊急クエストですか。ごくり……」
ザンザスの迷宮でステラと一緒だった水色の魔術師ジェシカ。
彼女のコカトリス遭遇、第二幕が始まろうとしていた。
お読みいただき、ありがとうございます。







