283.ぴよとパズルマッシュルーム
その頃、コカトリスの宿舎。
星明りの照らす夜のこと。
アナリアはイスカミナとテテトカ、それにコカトリス達にパズルマッシュルーム料理を振る舞っていた。
「もぐぅ……たくさん作ったもぐ」
「んっふふ、頑張りました! いやぁ、こんなに作ったのは学院時代以来ですね!」
えへんと胸を張ったアナリアの前には、数々のパズルマッシュルーム料理が並んでいる。
ビッグパズルマッシュルームをさくさくーとカットして調理したのだ。
「ぴよー」(もにゅー)
「ぴよよー」(もにゅもにゅー)
しかしながら、数匹のコカトリスはすでに生のパズルマッシュルームをもにゅもにゅしていた。
毒に対する絶対的な耐性をコカトリスは持っている。そのためキノコは避ける対象ではない。とにかくもぐもぐする対象である。
ぽてぽてとテテトカがお皿を覗き込んでは、ふんふんと頷いている。
「へー、キノコ料理がいっぱーい」
酢漬けのパズルマッシュルーム、焼きパズルマッシュルーム、煮込みパズルマッシュルーム……代表的な三料理に色々とトッピングを用意してある。
「これが食べマスターのおすすめ料理ですかー……」
「まぁ、おすすめというよりは馴染みというか……はい」
テテトカをはじめとするドリアードは普段の料理にはこだわらない。
草だんごが至高にして究極であり、それ以外の料理は一段落ちるのである。
だがそれは、決して味音痴を意味しない。
むしろドリアードの味覚は極めて鋭い――わずかな水の違いをも判別する。
エルフでさえも見過ごす、草だんごの出来栄えを正確に見抜くのである。
それをアナリアは知っており、ゆえになんとも曖昧な返事になっていた。
「でも出来栄えは保証します……!」
「本当にあの頃のままもぐー」
懐かしむアナリアとイスカミナ。
下手な料理を出してもテテトカは何も言わないだろう。そういう性格ではない。皿をぶちまけたりはしないのだ。
ただ、静かに首を傾げて見つめてくる。
樹海の闇にも似たその瞳が――。
「ぴよ、ぴよ、ぴよ」(いーち、にー、さーん)
「ぴよぴよ、ぴよ」(えっほー、えっほ)
数匹のコカトリスがぴっぴよと藁に寝転がりながら、脚と翼を広げる。エクササイズのように。
「……なにをしてるもぐ?」
「『たぷ』を減らしてるらしーよー」
「『たぷ』もぐ?」
聞き慣れない単語にイスカミナがヒゲを揺らす。
たぷ……?
テテトカがそれを見て、寝そべるコカトリスの一匹に近寄った。
そしてじーっと少し見つめる。
「んー、この子が二たぷくらい……」
「ぴよ〜。ぴよっ! ぴよー」(いや〜……たぷたぷっ! あははー!)
「でもって、こっちの子は……三たぷかなぁー?」
テテトカがぽむぽむと撫でたのは、腹ばいで遠い目をしているコカトリスだ。
「ぴよ、ぴよよ……」(我たぷる、故に我たぷ……)
なんとなく色々と考えているらしい。
「ふわもっこなコカちゃんに、そんな違いが……」
「……よくわかんないもぐ」
それをアナリアもちょっと遠い目をしながら解説をする。
「要はちょっとした食べ過ぎなんです。『たぷ』は悪ではありませんが、減らす努力は求められます」
それでイスカミナにも色々と伝わったらしい。彼女もこの村に来て数カ月になる。彼女もたぷとは無縁ではない。
全てはおいしい料理が招く悲劇か喜劇なのだから。
「さて、お料理が冷めちゃいます……! お早めにどーぞ!」
アナリアの言葉にコカトリスがぴよーっと料理へと群がる。
遠い目をしたコカトリスは腹ばいのまま、うにうにして近付いてくる。
こうするとコカトリスにも個性があるのだ。
基本的にコカトリスはかなりの食いしん坊。自制はするものの、お腹が空くのは耐えられない。
「ぴよよー」(これがさっきのー)
「ぴよ、ぴよよー」(もにゅっとするやつだー)
また、パズルマッシュルームを初見のグループもいる。
そうしたコカトリスはパズルマッシュルームの調理後の姿を興味深そうに見つめていた。
「ぴよ〜……」(なるるー……)
「ぴよよー」(おっきなシメジがこうなるのかー)
もちろんパズルマッシュルーム料理法にもどれが良いとか悪いとか、ないわけでない。
例えば焼きパズルマッシュルームは……確かに多少、繊維がほぐれるとは言われている。加熱による変化だ。
だが本当に気のせいレベルであり、あまり食べる人は多くない。
しかし塩胡椒で軽く焼いたパズルマッシュルームは、おかずとしては悪くない。特に肉のひと切れも買えない苦学生には……。
それよりも酢漬けか煮込みのほうが料理としての変化は大きい。
酢漬けは保存用であり、煮込みはすぐに食べる向けとも言える。
時間はかかるが煮込み料理なら、パズルマッシュルーム独特の味わいが生まれるのだ。しかも味が染み込むので、これは人気料理である。
ヴァンパイアのように郷土料理になった地域もある。
そして酢漬け――というか漬ける。これはおそらく人類が見つけた最良のパズルマッシュルーム調理法である。
お酒のおつまみとして、こちらのほうがポピュラーなのだ。
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