281.お風呂とパズルマッシュルーム
大聖堂の大浴場。
それぞれの部屋にも浴室はついているが、ナナの好意でステラ達は大浴場を貸し切っていた。
「……ぴよー。おゆぴよねー」
ディアは感心しながら見上げていた。お風呂場には大きなコカトリス像があり、そこの口からちょろちょろとお湯が出ているのである。
ちなみに像は片足を上げて、羽をぴっとしていた。
像の足元には「朝日を浴びるコカトリス像」と刻まれている。
像は綺麗とはいえ、魔法で固められておりコカトリスの黄金色ではない。真っ白なのである。
なのでディアも、この像は明らかに作り物と認識していた。
「とりあえずあわあわしましょうか……」
大浴場にはステラとディアとマルコシアスの三人だけ。普通ならこの大浴場には、二十人くらいは入れそうである。とてもよく声が響く。
「らじゃーだぞー」
「あわあわぴよー!」
さすがに石けんその他は最上の品質。あっという間に泡立って、ディアとマルコシアスがあわあわになっていく。
「あわだち、ちがうぴよ……!」
「すぐに泡立つんだぞ」
ステラも石けんを手に取り、あわあわになっていく。なんとなくトマトのかすかな酸味が感じられる。きっとトマト成分配合石けんに違いなかった。
「あわあわ、あわあわぴよよ〜」
ディアの羽は器用に動くので、すぐに全身すっぽりあわあわになる。
「マルちゃん、せなかとしっぽやるぴよ〜」
「では私は頭や手足の間を……」
「ありがとうなんだぞ……!」
マルコシアスのお手手は……短めである。
そのままだと背中や頭の上や尻尾を洗うにはちょっと足りないのだ。
「わっしゃわっしゃ、ぴよー」
「もにっとです……!」
ディアとステラによって、マルコシアスも全身泡まみれになる。
マルコシアスは洗われるのを嫌わない。この辺はステラやディアの影響だった。
「ぴよ。ぜんしん、あわぴよよ……!」
「あわですね……」
「わうー。なかなかいいんだぞ。しっとり度もアップ間違いなしだぞ」
「あたしも、よりふわふわかくてーぴよ!」
ぴっぴよと片足と羽を上げるディアは像によく似ていた。
「じゃあ、洗い流しましょう〜」
大聖堂は古めかしいように見えて、設備は最新のものに改修してある。ぬるめのシャワーで、あわあわを綺麗に洗い流してゆく。
「ぴよー、きもちいーぴよ!」
「わう! 完璧なんだぞ!」
「マルちゃん、しっぽにちょっと残ってるぴよよ……!」
ディアが羽でマルコシアスの尻尾をもみもみする。
そうすると泡は消えてなくなった。
「ありがとなんだぞ!」
「泡はオッケーですね。トリートメントもしちゃいましょうね〜」
三人ともあわあわを流し終えると、つやつや用の瓶を手に取ってトリートメントをする。
ステラもいい大人なので、美容にも気を使う。もちろん娘の美容とお手入れも大切である。
ディアもマルコシアスも全身羽と毛に覆われているので……。
トリートメントも終わり、お湯に入る。
そこで三人はふっと気が付いた。
「……ぴよ。あさいぴよね?」
「首が出るんだぞ」
「ですね。私はお腹の半分までです……」
ヴァンパイアは水が苦手で、全身がつかるお風呂場は作らなかったのだ。なので湯船は非常に浅い。
「自動的に半身浴ですね」
とはいえ、お湯は柔らかく……しかも薬用成分が入っていた。気持ちいい。
「ぴよ。これはこれでいいぴよね」
「とりあえず、まったりするんだぞ」
ディアとマルコシアスもふにゃーとお湯につかる。
それを片手ずつ撫でて悦に入るステラ。至福の時間である。
「ぴよよー……そういえば、あのもにゅっとしたのまだあまってるぴよ?」
「確かおやつとして瓶をもらったんだぞ。レイアは一瞬だけ微妙な顔をしてたんだぞ」
お昼の後にお土産としてあのパズルマッシュルームの酢漬け瓶が配られたのだ。
夜、口寂しいときにもにゅもにゅ食べるといいらしい。
「ザンザスの冒険者ならそうでしょうね……。第三層で苦戦したはずです」
ステラはソロで活動していたが、やはり第三層からは力押しで進むのが難しくなる。
傘の色が合わないので行ったり戻ったり、爆発して毒に苦しむ同業者を助けたり……。
「実に懐かしいですね……」
パズルマッシュルームの行動パターンを周知して、事故を少なくしたのはステラの功績のひとつである。
遠距離だけでなく、近距離でパズルマッシュルームを制する技術が必要なのだ。
それでも状態異常を治癒するポーションは必須。第三層を突破できれば、それなりの冒険者と言えるレベルである。
「あのもにゅとしたの、ザンザスにもいるぴよねー」
「ええ、そのまんま大きなキノコですが……」
「見てみたいんだぞ」
「ザンザスに行けば見れますね。今度、行きますか?」
「ぴよ! いいぴよね!」
そこでディアがふにっとお湯につかる。
「……とおさま、おにいちゃんはだいじょうぶぴよ?」
「大丈夫だぞ。お仕事頑張ってるんだぞ」
「これもお仕事ですが……もにもに」
ステラがマルコシアスの頭の後ろをもみもみする。
「わうー」
「エルト様もウッドも、きっと頑張っていますよ……」
ステラが遠い目をして頷く。
「そうぴよかー……。ぴよ……」
「眠たくなってきました?」
「だぞー。我も……」
「それじゃ、そろそろ上がりましょうか」
ステラ達はお風呂から上がって、きっちり水分を拭き取った。ふわもっこディアとしっとりマルコシアスの出来上がりである。
そして今、遠い空の向こうでエルトがアナリアからパズルマッシュルームの酢漬けを手に入れたとは――知るよしもなかった。
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