251.スティーブン村の宿屋にて
スティーブンの村。
夜になり、ステラ達は宿に泊まる。
幸いにもお風呂もシャワーもあり、気分スッキリである。
宿泊部屋は広くはないが、綺麗に整っていた。
窓の外からは一面、星明りに照らされた雪原が広がっている。
少し行った先には冠雪の山々があり、ヒールベリーの村とは何もかもが違う。
「スキーやスノボをする人がけっこう来るみたいですね」
「あとは近くの山で採掘だね。それなりに収入はあるみたいだ」
遊びまくっていたディアとマルコシアスは、ご飯を食べると眠くなっていた。
ベッドで横になりながら、二人は早くもすやぁしそうになっている。
「ぴよー。マルちゃんのにくきゅう、もみもみ……ぴよ……」
「主の頭に……すりすり……だぞ」
お布団を被りながら、ディアはマルコシアスは抱き合っている。
初めての外でのお泊りだけれど、ディアはちゃんと寝つけそうだ。ハイテンションで遊んでいたのが良かったらしい。
ステラとナナは部屋のテーブルを囲み、今後の話などをしていた。これもコミュニケーションである。
温かい紅茶を飲みながら、ステラがほうと息を吐く。
目の前のナナは着ぐるみ姿ではない。ラフなパジャマ姿であった。どことなくコカトリスの意匠が入っているパジャマである。
「今回は現地でホールド様と合流……粗相がないようにしないと」
「大丈夫じゃない? ホールドは礼儀にうるさいほうじゃないし、僕たちヴァンパイアも個人主義だしねぇ」
「とはいえ、ナナが来てくれて良かったです」
ほむほむと頷くステラ。
現代のヴァンパイアを一番知っているのは、村人の中ではナナを置いて他にいない。
「まぁ、大聖堂でレイアとも合流するしね。彼女もそれなりの立場で来るし、心配ないよ」
「別口で移動ですものね」
さすがにザンザスの資材まで持ってくるには時間がなさすぎた。人数も多いとのことで、別口になったのである。
「……故郷はどれくらい振りなんです?」
おずおずと尋ねるステラに、ナナがふふりと笑いながら答える。
「どれくらいかなぁ……。五年くらいかな」
貴族院に在籍していたナナであるが、結局貴族への道を選ばなかった。
在籍当時から先代アーティファクトマスターに師事し、卒業後はすぐに家を飛び出したのだ。
ちなみに家族と喧嘩や絶縁ということではない。
出来た兄がいたし、アーティファクトマスターになるのは名誉なこと。大した干渉もなく、ナナは冒険者になった。
「貴族はなんとなく向いてなくてね。もっと自由で、こじんまりとした生活でいいと思ったんだ」
「わかります……!」
ステラもふふりと微笑む。それは二人を繋ぐ共通点だった。
「ナナもすっかり村の住人ですしね。エルト様も頼りにしてますし――レイアだって、そうだと思いますよ?」
「……どうしてそこで、彼女の名前が?」
「仲、いいんじゃないです?」
ステラの言葉に、ナナが若干眉を寄せる。
「大人は軽々しく、そんなことを言わない……」
「気持ちはわかりますが。レイアも単純そうでいて、複雑というか癖がありますからね。伝えたほうがいいかなぁ、と」
ナナが押し黙ると、ディアとマルコシアスの寝息が部屋に響く。
「すやー……ぴよ。ゆきはなんで、つめたいぴよー……。すやー、ぴよ……」
「わうー……。そらのうえがさむいから、なんだぞー……わふ」
そんな様子を見ながら、ステラがナナへと言う。
「そんな久しぶりに故郷に帰るのですから、家族に伝えることもあるのでは?」
「……まぁね。しばらくはヒールベリーの村にいるつもり、そう伝えようかなと」
「なるほど、そうですか」
にこにことステラが頷く。
そう、ナナにも色々とあるのだ。そして、変わりゆく。
悪い話でない。むしろ良い話なのだ。
「それよりも……そちらはどうなのさ?」
ずずっと持ってきたトマトジュースを飲みながら、ナナが尋ねる。
「こちら……ですか?」
「エルト様と……だよ。ここ最近は、かなり距離が近いじゃないか」
「もちろん、らぶらぶらばーずですから……!」
えっへんと臆面もなく、ステラは言い放つ。
それがステラの持つ強さでもあった。
「なるほど……」
「ユニフォームを着たエルト様、とってもいいですよね……!」
「ん?」
「普段の貴族的な服もよいですが、ラフなユニフォームで体の線が出たエルト様もよいですよね、というお話です」
「う、うん……」
なんだかちょっと話がズレているような。
ナナはもちろん、エルトの兄であるヴィクターも知っている。
現在の経歴で言えば、三人の兄の中でも頭ひとつ抜けている――と言えるだろう。つまりナーガシュ家の後継候補として、今のところ優位であるということだ。
もちろん三人の兄の中では、ぶっちぎりの変人である。しかし人当たりは良く、気遣いもできる。
ただスイッチが入ると、少し早口になるのだ。そして突撃していく。
ナナも何度かそういう場面は目にしていた。
「まぁ、その調子なら大丈夫か……」
「えっ?」
「いや、気にしないで」
気が合うかもしれない。
コカトリス関連なら、ホールドがヴィクターを呼ぶことはありそうなことに思えた。
ヴィクターが乗り込んでくる可能性のほうが高いかもだが……。
すっかり野ボールに染まっていた村人を思い返しながら、ナナは静かに頷くのであった。
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