226.根回し
ドールハウスは前世の玩具である。
かわいらしい人形とセットで、根強いファンもいる。
日本でも雛人形とかは近い文化と言えるだろう。
オーダーメイドの高い物になると、それこそ天井知らずと言ってもいい。
「いいじゃないか」
改めてレイアの広げた紙を見ながら、俺は頷く。
コカトリスと大樹の家。この村の宣伝にもなりそうな気がする。
俺が言うのを聞いて、レイアがぱぁっと微笑む。
「そう思われますか!」
「なかなかの閃きだと思うぞ」
「はい……! それはあまりに忙しく、ザンザスの冒険者ギルドの執務室で仮眠を取ろうとしたときのことで――」
ん?
レイアは紙を折り畳んだが、何か話が始まったな。
いやまぁ、いいか。聞いてみよう。
「ソファーに横になりながら出来る限りのコカトリスぬいぐるみを置いたのです。枕代わりにもしましたし、胸の上にも置きましたし、ソファーの横にも並べました」
「……ほうほう。大量のコカトリスに囲まれながら仮眠を取ったんだな」
「ええ、コカトリスのつぶらな瞳に見守られながら、眠りについたわけですが――」
そこでレイアがずいっと身を乗り出してきた。
その分、俺はちょっと身を引く。
「そうしたら、夢の中にコカトリスが出てきて……それが今、お見せしたような玩具で遊んでいる光景だったのです! これは天啓です、間違いなく!」
ふむ、いつもよりさらに過熱しているな。
疲れ過ぎたせいか、はたまた大量のコカトリスぬいぐるみによってかはわからないが……。
「それで……もうザンザスの議会でもオッケーが出たのか?」
「はい、私が議員達を締めあげ――もとい説得しまして!」
不穏な単語が聞こえた気がするが、スルーしよう。
しかしアイデアとしては真っ当な物だ。
コカトリスぬいぐるみはこの村だけでなく、世界中で売られているらしい。
そこに付加価値を付けるのは悪くない。
すでに前世でも実績があるしな……。
うまくやれば、愛される玩具になるのは間違いない。
あと確認しておきたいことが、ひとつだけ。
「ところでさっきの絵なんだが、この村だったよな? ザンザスの風景じゃなかったみたいだが」
「ザンザスにはステラ様の像とダンジョンを除くと、特徴ある物があまりないので……。少し、インパクトに欠けるかなと」
「交易都市で色彩豊かと聞いたがな」
色々な旗やノボリ、それにお店。
行き交う人もバラエティに困らないだろうに。
「ザンザスの街中にコカトリスがいるわけではありませんからね。それと……色が多いのも大変なので」
「……なるほど」
最初からフルカラーで用意するのも大変だしな。
大樹の家ならそれなりに色数は抑えられる。
「議会から言われたのは、今度の芸術祭で一定の評価を得ること。それによって今後の生産のめどを立てるそうです。そうなると時間はあまりありませんし」
「物はまだないのか……」
「エルト様の許可をもらったら作り始めます! 特急で!」
ぐっとサムズアップするレイア。
「ふむ、こちらとしては特に問題ない。芸術祭で結果が出れば、か。俺にも協力できることがあれば、言ってくれ」
「ありがとうございます!」
というわけでドールハウスの出展も決まったな。
出展物の数と種類はおおよそ、こんな物だろう。
花飾りとドールハウスと……野ボールか。
あとは出来る限り良い物を作るだけだ。
……うーむ。
この中で一番難しいの、野ボール関連じゃないか……?
◇
そして、これから各々で出展物作りをしてもらわないといけない。
期限は半月後、ホールド兄さんが来るまでにだ。
レイアいわく、このときの打ち合わせでほぼ決まりになるそうだ。
出展品カタログに載せる題名や概要も打ち合わせるらしいし。
しかし現時点で特に問題はないとのこと。
あとはちゃんと作り上げるだけだな。
まぁ、花飾りはテテトカ指導、ドールハウスはレイア主導だが。
俺がやるべきは野ボールとナナへ話を通すことか。
レイアとの話し合いが終わった後、俺はナナの家に向かった。
ちなみにレイアも一緒だ。
ザンザスも関与してるので共に行く、ということらしい。
ナナの家に着くと、レイアがぽつりとこぼす。
「今の時間は寝ているか、徹夜明けか……」
「割とハードだな」
今は昼前。ヴァンパイアなら寝てるかも。
レイアが懐から鍵を取り出し、当たり前のように玄関を開ける。
「ナナー、起きてますー?」
レイアが呼び掛けながら家に入っていく。
躊躇がないな……まぁ、レイアだしいいんだろう。
距離感を見誤る人じゃないし。
「その声は……レイア?」
奥からナナの声がする。
前半の声のトーンは訝しむようだったが、後半は声色が明るくなった。
いきなり入っても問題はなかったわけだな。
ぬっと現れたナナはコカトリスの着ぐるみ姿だ。
「俺もいるぞ、悪いがお邪魔する」
「エルト様も……どうぞどうぞ、物がたくさんありますけれど」
ナナの勧めで奥に入っていく。
相変わらず物が多いな。片付けはそれほどされてない。
リビングの椅子について、芸術祭の話をする。
こちらとしてはナナの収納を使わせてもらえれば、かなり楽になるのだが。運ぶ手間が大きく減る。
もうマルコシアスとステラには話を通したので、ばびゅん輸送も問題ない。
あとはナナが協力してくれるか。
しかしナナがこれにメリットを感じるかな。話しながら確かめるしかないか。
そして、あらましを説明するとナナは深く頷いた。
「なるほど、そういうことなら協力します」
あっさりオッケーが出た。正直、意外だ。
レイアも同じように思ったのだろう。
「あら、あっさりですね」
「馬車で揺られるのなら断ったかもだけど、そうではないので」
「そうだな、またマルシスと行ってもらうことになる。ステラも含めて」
つまり前回の東の国と同じメンツというわけだ。
でないと飛ぶたびに地面に突き刺さることになるし。
もしかしたら、レイアは別口で行くかもと言っていたが。
「僕としても故郷だし、そろそろ顔を出したいとは思っていました。その辺りの融通は大丈夫ですか?」
「もちろん問題ない」
なるほど、故郷への顔出しも含めてか。
出身は北の国と言っていたからな。おそらく縁者や知人友人が来るんだろう。
それならマルコシアスのばびゅんで行ったほうが手間は掛からない。
お互いに利益があるというわけだ。
「あとはホールドに会って締め上げれば、またレアな物もゲットできるし……」
「そ、そうかもな」
その辺りはわからん。
頑張れ、ホールド兄さん。
「でも収納するのなら物が出来上がってないといけません。それは可能なら、早めにお願いします」
「ああ、わかった」
よしよし。
すんなり決まったな。
……メリットもそうだが、レイアが来てからナナが嬉しそうにしている。
知らない間にかなり仲良くなっていたんだな。
きっと工作や魔法具関係で話が通じるのだろう。
あとは……そう、野ボールの出展物を作るだけだ。
今のところ、さっぱりいいアイデアが思い付かんが!
お読みいただき、ありがとうございます。







