211.愛の味
しかし、それは一般市民の話だ。
貴族の結婚は早い。
俺の三人の兄も全員結婚しているし、大体の貴族は二十までには結婚する。
貴族の役割のひとつは血統を残すこと。
これは実際的に、魔力と魔法適性は血統により発現率が決まるからだ。
なので、どこの貴族も早期に結婚するはずだ。
俺がこの村に来てから情報収集した限りでも、おおむねこの考えに外れはなかった。
「あと残るは……種族的にはどうなんだ?」
俺はおそるおそる確認する。
この世界では様々な人間種族が生きているが、差別をすることは許されない。
これは世界連合の憲章にも書かれている。
人間種族は全て公平に扱うべし。
貴族の教育でもそう習う。
だが、実際にどうなのかはよく分からない。
暗黙とした区別や差別が横行している可能性はゼロではない。
特に恋愛と結婚はデリケートだからな……。
アナリアとナールが顔を見合わせる。
「にゃ、特にこの辺りでそれが問題になることはないですにゃ」
「ザンザスは交易で潤っていて、その周辺地域にも恩恵がありますからね。多種族が住まう都市ですし」
「ふむ……恋愛や結婚についてもか」
「同性もオッケーですにゃ」
「……そうなのか?」
「数年前でしたか、ザンザスの議会で通過しました」
「その時、あちしは北にいたのですにゃ……結構話題になったのですにゃ」
知らなかった……。
まぁ、俺もザンザスの結婚制度まで調べてなかったからな。
おそらく都市の法律で法的な権利を認めているのだろうが、進んでいる。
しかしある意味、当然か。
教会権力は弱く、ザンザスは自治都市だ。
市民自らが自分達のための法律を作れば良い。
ザンザスにはその権利がある。
俺がとやかく言うことでもない。
「あらましはわかった。相当に自由ということだな」
「でも浮気は駄目ですにゃ」
「ダメですね」
「それはそうだな……」
不倫やら浮気やらにも考えがあるのだろうが、とりあえずそこはいいだろう。
まずは恋愛、お付き合いからだ。
「率直に聞くが、ララトマとウッドの付き合いには問題がないと思うか? 俺も……まぁ、困ってるんだ」
「エルト様がですか……」
「ちょっとびっくりですにゃ」
「そうか?」
「初めてではありませんか? 困ってる、と口にされたのは」
「……そう思いますにゃ」
ふむ、そうかも知れない。
困ったことはあったが、解決策は頭の中には常にあった。
しかし今回は本当に悩ましい。
下手に横槍を入れれば、こじれるかもだし……かと言って、何もしないのも……うーん?
もちろん後でステラにも聞くが、俺は俺で考えを整理しておきたい。
……それにステラは数百年分のラグがある。
この話を聞いたら、即座に結婚させましょう! とか話がすっ飛んでいく可能性もある。
それはかなりコワい。
「体の大きさや年齢を置けば、特に問題はないと思いますが……」
「にゃ、確かララトマはああ見えて、すごい年齢でしたのにゃ」
「五百年は生きているのでしたっけ……。本人も定かに覚えてないようですが……」
どうやら制度的、風潮的な意味では問題ないようだな。年齢だとかはもう仕方ない話だが……。
「エルト様はどうお考えなのですか?」
「……俺か……」
実のところ、いつか家族の中からこういう話も立ち上がってくると思った。
ただ、一番最初に話が来ると予想したのはマルコシアス相手にだったが。
美しさで言えば、彼女に心惹かれる男は多いだろう。
個人的には子犬姿の方がラブリーで好きだが……。
お祭りのときのように表舞台に立っていけば、どこからか交際、婚約の申し出はあると考えていた。
まさかウッドの方に話が降ってくるとは思わなかったが。
「ララトマもいい人だ。色々な違いはあれど、うまくやれるんじゃないかと思う」
「にゃ、あちしもそう思いますにゃ。ドリアードは純朴ですにゃ、ウッド様ならうまくされる気がしますのにゃ」
「ニャフ族は遊んでもらってますしね」
「にゃ、それもあるにゃ」
ナールが朗らかに笑う。
反対はないようだな。
まぁ、政治的に言えばドリアードとの関係強化にも繋がるし……打算は嫌だが。
でもガチ恋愛だと俺の母親みたいな結末もあり得るんだよな……。
はぁ、なんて難しい……。
とはいえ避けては通れない。
家族がいる限り、新たな出会いは起こり続ける。
でも少し安心したのも確かだ。
子どもがモテないと、ちょっとヘコむよな……。
◇
話し合いが終わり、俺は家へと帰ってきた。
貴重で率直な話が聞けて良かったな。
ステラはまだ帰宅していなかった。
今日は……冒険者の会合か。
エリアの振り分けや冒険者への講習など、ステラが担う仕事もそれなりに多い。
特に冒険者独自のセンスが必要な仕事は頼っている状況だ。
ステラいわく、数ヶ月あれば一段階レベルが上がるらしいが。
そうなるとかなり楽になるようだな。
「ただいまー」
「おかえりぴよ!」
「おかえりだぞ」
「ウゴウゴ、おかえりなさい」
ディア、ウッド、マルコシアスはソファーで本を読んでいるな。
マルコシアスは子犬姿になっている。
遠目に見える本は……おとぎ話や昔話が載っているやつか。
絵本ほどではないが、挿絵は多めで読みやすいやつだ。
「ぴよ……。このきしのことば、よくわからないぴよ」
「どこが分からないんだぞ?」
「『たとえおやがひきさいても、わたしのあなたへのあいはけっしてとまらない!』ぴよ」
「ウゴウゴ、深い言葉……」
タイムリーな話題になっているな。
むしろ事と次第によっては地雷案件だ。
俺はまだソファーに腰掛ける段階に入っていない。
ここで俺が声を掛けるわけには……。
「げきのときもおもったけど……あいってなにぴよ?」
ディアが本を羽で指しながら問いかける。
「愛……それはだぞ……」
マルコシアス……。どんな答えを?
「メロンのように甘く、時にぶどうのように酸っぱいものなんだぞ」
ロマンチシスト!
でも百点満点で千点あげてもいい!
ディアやウッドにはちょうどいいんじゃないか。
「よくわからないぴよ」
「よくわからないことなんだぞ」
「なるぴよ。よくわからないぴよね……でもメロンやぶどうににてるぴよ?」
「それをミックスしたもの……なんだぞ」
凄く穏当で柔らかい表現だ。
ある意味、適当に答えているとも言えるが。
しかし特に付け加える必要は感じない。
限りなくパーフェクトアンサーだろう。
「ウゴウゴ……俺もよくわからない」
「おにいちゃんもそうなのぴよね……。あっ、でもわかるぴよ!」
何か閃いたディアがソファーをぴょんと降りる。
なんだなんだ。
「どうしたんだぞ……?」
心なしかマルコシアスも焦ってる。
やはり恋愛的な話はそれなりに考えて言っているんだな。
ディアはしゅっと羽を広げると、自信満々に宣言する。
まるでこの世の真理に到達したかのように。
「じっさいに、メロンとぶどうのミックスジュース……つくってのむぴよ! それがあいぴよ!」
お読みいただき、ありがとうございます。







