202.例えるなら、山のような
ヒールベリーの村。
ウッドはなんだか綿を持って出掛けていったな。
大樹の塔に持っていくらしいが。
……脱脂綿みたいに使うのかな?
なので家には俺とマルコシアスだけだ。
「わうー」
ソファーで本を読んでいると、子犬姿のマルコシアスが俺のふとももに乗ってきた。
マルコシアスはそのまま上半身をだらーっとさせている。
「どうしたんだ?」
「撫でて欲しいんだぞ」
……きらきらした瞳でこちらを見上げるマルコシアス。
うっ、かわいい。
最近、マルコシアスも俺やウッドに懐いてきている。
というより、東の国に行ってからかな。ストレートに甘えてくるようになった。
一度距離を持ったことで、お互いの関係を見つめ直すきっかけになったというわけだ。
……それが撫でて欲しいことに繋がったのは、マルコシアスらしいけど。
「よしよし」
俺は右手でマルコシアスの頭から背中を撫でる。
吸いつくようで吸いつかない、しっとりとした手触り。
ディアが天国の羽毛なら、マルコシアスは地獄の絹だ。
そう、よくわからない例えが浮かぶくらいには良い。
「もっと触って欲しいんだぞ」
俺の撫でる腕にマルコシアスがまとわりつく。
「よしよし……」
本を置いて両手でマルコシアスを撫でる。
しっとり、しっとり……。
ディアとは違う方向で素晴らしい。
ハマりそう。
マルコシアスもディアに本を読んでたり、ステラを連れてったりと頑張ってるもんな。
「わうー、父上の撫で方は優しいんだぞ」
「……そうか?」
「母上はちょっと雑だぞ……」
「そうなのか……。ディアは?」
「わふー」
マルコシアスがこちらに振り向くと、右前足と左前足を広げた。
そして右前足をふにふにと揺らす。
「こっち、父上側」
「ふむふむ」
続けて左前足をふにふにと揺らす。
「こっち、母上側」
「ほうほう」
マルコシアスがほわっとしている顔を、右前足から左前足にすすっと動かす。
……なんかのゲージみたいだな。
マルコシアスの頭は左前足の近くで止まる。
「……この辺りだぞ」
やや雑に近いんだな……。
まぁ、割とディアも勢い任せなところがあるし。
「お腹も撫でて欲しいんだぞ」
ごろりとマルコシアスが無防備にお腹をこちらに向ける。
ふむ、積極的だな。
優しくマルコシアスの背中とお腹をモミモミする。
ふにぷに、ふにぷに。
うーん……。
「……ちょっとお肉が付いてきたか?」
「ぎくっ、なんだぞ」
「運動しないとな……」
俺も他人事じゃないが。
木剣を振り回しているだけじゃ足りないかもな。
「兄上が帰ってきたら、運動するぞ……」
「ウッドはお肉つかないと思うが」
「いや、兄上を昇ったり降りたりするんだぞ。くぼみとか枝とかあるから」
ふふーんみたいな顔をするマルコシアス。
……かわいい。
「それならウッドも嫌がらないだろうが……。引っかかないようにするんだぞ」
「らじゃーだぞ!」
マルコシアスも素直なんだよな。
その辺り、ディアとよく似ている。
そうやって、俺はしばらくマルコシアスと遊んだのであった。
◇
大樹の塔。
大広間ではアナリアとイスカミナ、ララトマがちょこんと座っていた。
そしてテテトカが彼女達の前でわたわたと手を振っている。
彼女の横には大きなテーブルが用意されていた。
「第一回、花飾りの講習会をはじめるよー」
テテトカが楽しそうに言う。
もちろん予定しているわけではなかった。突然の開催である。
「ウゴ……俺も?」
綿を届けに来たウッドも座っていた。
少し戸惑い気味の様子ではあるが。
「ついでに聞いていってよー」
「……ウゴ、わかった」
テテトカのノリはけっこう強引である。
とはいえ、ウッドは思った。
とりあえずやってみよう。
ステラもそうだし、エルトもそんな感じである。
同じように言われたら、きっと同席するだろう。
なるべくやってみる。
それは家の方針のはずなのだ。
「最初のうちはー……やり直しができるものでやった方がいいかもー」
ウッドの持ってきた綿を両手に抱えるテテトカ。
なるほど、これに使うのかとウッドは納得する。
「よいしょー」
テテトカはテーブルの上に綿を置いて、それを人数分、小さくちぎる。
「あとはー……枝とか花とか」
「ウゴウゴ、持ってくる!」
ウッドが立ち上がり、大広間の隅から木製バケツに入った枝や花を持ってくる。
元々ドリアードが持てる分なので、重くはない。
「はわー……」
「……大丈夫ですか、ララトマ?」
「なんですー?」
「なんか夢見心地もぐ……」
「そのようですね……」
アナリアもイスカミナもそれなりの大人、社会人である。
何かあるような気はする……けど微笑ましく見守ることにした。
「ウゴウゴ、このあたり?」
「そですー、ありがとー」
ウッドがテーブルの上に木製バケツを載せる。
「んじゃ、さっそくやるよー」
テテトカがバケツから枝を一本取って、それを振り回す。
小振りで、ちょこんと先っぽに葉が付いている。
「こんな感じのをー」
ぶすっ。
テテトカが綿に枝を突き刺す。
縦に思いっ切り。
それにアナリアとイスカミナはぎょっとする。
思ったよりもワイルドな作り方だ。
「いきなりいったもぐ」
「刺しましたね……」
そしてテテトカがぱっと手を離して、
「こーいうのはだめーです」
「……だめもぐ」
「駄目な例のようですね……」
「ウゴウゴ、やっぱり」
うんうんとテテトカは頷くと、木製バケツから枝を一本取る。
さっきのと同じような枝だ。
そしてテテトカは格段に真剣な目付きになっている。
ごくり。
テテトカが枝を斜めにして、すーっと綿に突き刺した。
そしてぐっと親指を立てる。
「これはおっけー!」
ララトマも親指を立てる。
どうやらララトマ的にもいいらしい。
「オッケーです!」
その様子に残りの三人は首を傾げる。
よくわからない。
さっきのと何が違うのか。
「……おっけーもぐ?」
「おっけー……?」
「ウゴウゴ、違いが……」
テテトカは向き直ると、解説を始める。
「まずー……直線的に縦はだめーです。こう、曲げたり斜めにするのが基本です」
「ほうほう……」
「つまり絡まってもつれる、そういうのを再現するんですー。倒木から苔やツタ、芽が出てくるように」
「高度な概念もぐ……」
ささっとメモを取るイスカミナ。真面目である。
「石はまっすぐになりますー。でも森は違う。でこぼこしたり、斜めになったり。綺麗に整えて並べてはだめーです」
「……ウゴウゴ」
ウッドが自分の体を見る。大きな樹木の自分の体を。
「そうです! これが理想なんです!」
ぺたぺたとララトマがウッドに触る。
と、慌てて手を引っ込めた。
「まぁ、そんなとこー。それぞれの枝や花の意味はのちのち……まずは斜めと曲がるのに慣れましょー」
というわけで、それからしばらく綿に枝を刺す練習をする。
……アナリアはちょっと思った。
「これは……奥深いですね」
「難しいもぐ?」
「それはありますが」
じっと枝を突き刺して針山状態になった綿を見る。
綿を山に例えてみれば、確かに何か掴めるような気がする。
「なかなか、面白いですね」
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