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【4月コミカライズ発売!】植物魔法チートでのんびり領主生活始めます~前世の知識を駆使して農業したら、逆転人生始まった件~   作者: りょうと かえ


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200/840

200.規格外

「すみません、突然押し掛けて……」


 ステラは申し訳なさそうにディアを撫でながら言う。


「エルト様からお聞きしました。こちらでレイアがボートのデザインをしているとか」

「……うん、奥にいるよ。まぁ、まずは入って」


 ナナがステラとディアをリビングに招く。

 家全体からトマトの匂いがするが、ステラとディアはスルーした。


 ごちゃっとなったリビングに通された二人は、装いを正したレイアと向き合った。

 ディアがじーっとレイアを――レイアのコカトリス帽子を見つめる。


「ぴよ。ぼーとやさんもやってるとは、はたらきものぴよ……」

「ええ、レイアはよく働いてますからね」

「恐れ多いことです、ステラ様」


 こほんと咳払いし、レイアがいくつかの紙を取り出す。


「これはニャフ族向けのものですが、デザイン案は色々とあります。ぱっちり目が開いているコカトリスのボートと眠そうなコカトリスのボート、羽が広がっているタイプとか……」

「どれがいいぴよ、かあさま?」

「えっ?」

「ぼーとがほしいのは、あたしじゃないぴよ。あたしのぼーとは、かあさまがつくってくれるぴよ」


 さも当然、とばかりにディアが言う。

 それにステラも頷く。


「手のひらサイズでいいなら、すぐに作れますからね」

「かあさまはてさきがきようぴよ」

「……それじゃボートが欲しいのは、ステラの方?」


 少し嫌な予感がナナを襲う。

 なんだろう。ついちょっと前にもこんなことがあったような。


「そうです……!」


 ずずいっとステラがレイアに近寄る。


「たとえば、私にはそこそこの貯金があるのですが……」

「ええ、まぁ……当然、お持ちでしょうね」


 エルトはステラにもちゃんとお金を渡している。

 正確には雑なステラに、報酬を押し付けているのだが。


 とはいえ、ステラはそれらの報酬をあまり使っていない。

 野菜や果物は最高級品をエルトが用意するし、バットはエルトが作るし……。

 というわけで貯金は上積みされる一方であった。


「それで……大きなボートが欲しいんですが、金貨五十枚でどこまで大きくできます?」

「五十枚ですか!?」


 貴族としてもそう簡単に出せない金額、一個人としては破格である。

 なにせ庶民の年収で四年分くらいだ。


「な、なぜそんな大きなボートを?」

「家族皆で、湖でのんびりしたいなぁと思いまして……」

「とつぜん、おもいついたらしいぴよ」

「思い付きました。お金も貯め込むだけは駄目だとエルト様も言ってましたし……」


 ナナがじとーとステラを見る。

 今回のことでナナは確信した。


「あなたって、割とノリで生きてるね?」

「やっと気が付きましたか? そうです、私は割とフィーリングとノリで生きてます……!」

「いきてるぴよー!」


 この娘にして母親ありか。

 なんとなくナナは納得した。


「それでどうですか……? ウッドも乗せるとなると大きなボートが必要ですし」

「おにいちゃん、おっきいぴよ」

「……なるほど」

「家族一緒、ね」


 レイアはふうと肩で息をする。


「無理ではありませんが……ウッド様も一緒となるとかなり大きくしないと無理ですね」

「このボートは三人乗りくらいだしねぇ」

「ニャフ族向けなら、私達でいうと子どもサイズです。必然的にかなり小さくなります……」

「おにいちゃんはめちゃめちゃおっきいぴよ」

「村一番ですからね」


 ウッドの身長は二メートル。体重も木なのでかなり重い。

 一般的なニャフ族の三倍は重いだろう。


「私達家族で――ニャフ族十人分は見ないといけないでしょうか」

「概算で、そのくらいですね」


 乗る人数が多くなると、指数関数的に材料が必要となる。

 もちろん工賃も高くなってしまう。


 レイアはコカトリス帽子に包まれた頭をフル回転させる。ぴよぴよぴよ。


「金貨五十枚は掛かりませんが、二十枚くらいは掛かるでしょうね……」

「なるほど。やはりそれくらいですか……。では、よろしくお願いします」

「承知しました……。しかしそれなりに時間は掛かりますが」

「もちろんです。他の方の後でいいので……」

「ぴよ。これでみずうみのまんなかで、スイングれんしゅうできるといいぴよね!」

「ええ、そうですね……こほん」


 ステラが咳払いして、


「さて、それではお邪魔いたしました。ボートの件、よろしくお願いいたしますね」

「よろぴよ!」


 そう言うと、嵐のごとくステラ達は帰っていった。

 トマトジュースを作りながら、ナナがつぶやく。


「ふむ……さすが規格外の英雄。発想と行動力も規格外だね」


 ◇


 ホールドの屋敷。

 その屋敷では一騒動が起きていた。

 メイドや執事が右往左往し、当主であるホールドを探している。


「旦那様はどちらに!?」

「工房の方へ……!」

「すぐにお呼びしてくれ!」


 オードリーが部屋から顔を出し、メイドに確認する。


「ど、どうかしたのですか?」

「ライガー家です! ルイーゼ様が突然、門の前に……!」

「ライガー家の方が……?」


 ルイーゼ・ライガー。

 オードリーも彼女のことは知っていた。


 五大貴族の一角、ライガー家の嫡流。

 今現在は家督争いをしている一人のはずだ。

 父ホールドと同年代で、貴族院から付き合いが続いているはず。


 オードリー自身、何回か会ったことがある。

 とはいえ間隔が開いているので、ぼんやりとした程度だが。


 そんなことを思い出している矢先に、執事を連れたホールドが足早に歩いてくる。


「旦那様、お早く……!」

「やれやれ。ヤヤが外交にでている時に……」


 ぼやきながら、ちょび髭をいじるホールド。

 そこでふと、ホールドとオードリーの目線が合う。


 ちょこんとオードリーが頭を下げる。


「父上、私は部屋でおとなしくしています」

「……いや」


 ホールドが足を止め、天井を見つめる。

 その様子に執事がいぶかしむ。


「どうかされましたので?」

「ふむ……オードリー、いい機会ではないが来なさい」

「旦那様……!?」

「ルイーゼは私と同年代。礼儀作法にうるさい人間でもない。これも訓練だ、同席しなさい」

「……は、はい!」


 オードリーは慌ててメイドに服装を整えてもらい、ホールドを追いかける。


 屋敷の門前は、すでに人だかりができていた。


 ルイーゼがあぐらをかきながら、空中にふよふよ浮いていたからだ。


 その姿を認めたオードリーはぎょっとした。


 短く切り揃えた金髪に、金をあしらった燕尾服。

 八重歯に釣り上がった獰猛な目。

 背丈は小さく、女性というよりは少年貴族のようである。


 服装も雰囲気も振る舞いもめちゃくちゃで、自分が教えられてきた貴族とはかけ離れている。


 オードリーが小さくホールドに呼びかける。


「……父上」

「正装してきただけ、まだマシだ」

「そ、そうなのですか」


 オードリーが目をしばたかせる。

 これは容易ならざる人物だ。オードリーは自分が呼ばれた理由がわかった。


 いきなりこんな人物と接したら、まともに応対できないだろう。

 父と同席した方がいいに決まっている。


 そんなオードリーとホールドの姿を、ルイーゼも認識したらしい。


 まだ浮かびながら、右手を大きく振る。

 とてもイイ笑顔で。


「おーい、やっときたか! 金を貸してくれ!」


 ……ごくり。

 とんでもない人が来た!


 オードリーは素直にそう思ったのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 貴族が他家(で、しかもお互い一族当主級)の貴族にお金を借りに来た!? お前さんの領地経営なにがあったー!? と、ならない感じの人登場ですね。 ライガー一族はこののりで他家の本家級の跡…
[良い点] 200話到達おめでとうございます。 [一言] > ライガー 獅子 vs 虎の交流戦ですか。 そんな時期ですね。
[良い点]   ☆祝☆200話☆ 「植物魔法はチートやろ!逆転人生?やったれやー!」と、一気読みしてから数ヶ月… 今では可愛い最強生物コカトリスにメロメロですわよ(笑) これからも楽しく読ませてい…
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