『7章』 覚醒
◇◇◇◇
「ま・・み、ま・・み、まな・・み、」
遠くから誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえる・・・。
「愛美!愛美!」
私は重い瞼を必死で開いてみた。
すると・・・、
「愛美!愛美!」
見知らぬ女性が私に覆いかぶさるように覗き込んでいた。
(えっ?誰?)
「ああ、愛美、目が覚めたのね!!!本当によく戻ってきてくれて、うわぁ、良かったぁ。」
その見知らぬ女性が私に縋り付いて大泣きしている。
「えっ、あの・・・、」
(この人誰?って言うか愛美って?)
「ああ、愛美、一時はどうなる事かと思ったぞ、本当に目が覚めてくれて良かった!」
声がした方を見ると、反対側にも知らない男の人が、これ又、目に涙を浮かべて立っていた。
私は困惑しながらも辺りの様子を窺うと、ベッド脇のテーブルに置かれてあった鏡が目に入った。
ちょうどその鏡は、その鏡に見入っている私を写していた。そう、佐伯愛美を・・・。
◇◇◇◇
そうだ、全部思い出した。
私は、妬ましくて羨ましくて仕方なかった佐伯さんの美しい顔を見付けて、その顔を自分の物にしてしまった。
あの時・・・、一つ前の鏡に映った顔を見てサイレンのような音がどこからともなく聞こえた気がした。
そう、あれが本当の私の顔だった。
綺麗でもない、可愛くもない、何の特徴も無い詰まらない女。そんな立木舞を私は捨てたのだ。
私はとうとうこの美しい身体を手に入れた。これで悠夜ともう一度始められる!
あの闇の声は、最後に何か言っていたけれど、私は平気。
この身体さえ手に入れば、悠夜と一緒に居られる。悠夜さえ居てくれれば、私には他に望む物なんて何も無いから。
だから私は大丈夫・・・。
◇◇◇◇
そこに、
「ちょっと失礼します。」と、
佐伯さんのお父さんらしき人に場所を譲って貰って、白衣を纏った若いお医者さんが私の側にやって来た。
そして簡単に診察すると、
「愛美ちゃん、手術は成功したよ。意識が戻らなかった時はとても危険だったけれど、脳を圧迫していた腫瘍は全て摘出に成功した。経過を診ながらだけれど、うまくいけば2~3週間で退院出来ると思うよ。」
私はその時初めて、佐伯さんが脳腫瘍を患っていた事を知って愕然とした。
あんなに楽しそうに笑っていたのに、そんな恐ろしい病気に罹っていたなんて!
「「先生、本当にありがとうございました。」」
ご両親と思われる二人が、口々にお礼を言いながら何度も何度も先生にお辞儀をしていたので、私も先生に、
「先生、ありが・・とう・・ござい・・まし・・た。」
と慌ててお礼を言おうとしたが、まだ口がうまく回らなかった。




