『1章』 はぐれた魂
◇◇◇◇
気が付くと私は真っ暗な場所に居た。
四方八方真っ暗で、どこがどうなっているのか、ここがどこなのかさっぱり分からない。
ただ私はその漆黒の闇の中に立っていた。いや、立っているのかどうかさえよく分からなかった。
自分の姿、その手も足も何も見えないのだから。
◇◇◇◇
「気が付かれましたか?」
突然闇の中に通る声が響き渡る。
私はその声がどこから聞こえてくるのか、声がしたと思った方向を探ってみたが、さっぱり判らなかった。
「無駄です。私を見付ける事など出来ません。私は形を成さぬ者。」
「ようこそ鏡の間へ、迷える魂よ。」
(鏡の間?)
すると突然私の周囲に、幾つもの炎が揺らめきながら浮かび上がって辺りを照らし出した。
そうして私の周囲だけが明るくなると、この漆黒の闇の中に、驚いた事に、私の周りをぐるっとまあるく取り囲むように、巨大な鏡が並べられていた。
でも何故か不思議な事に、その鏡には何も映っていなかった。
当然映っているいる筈の私の姿も・・・。
(えっ、私は?)
私が全ての鏡を何度も何度もあちこち見ていると、
「あなたは迷える魂、私と同じ実体の無き者。鏡に映る訳がありません。」
「あなたはどうしてここに居るのかご記憶にありますか?」
(私がどうしてここに居るのか?)
「あなたのお名前は?」
(名前?)
「あなたのお名前は?」
(名前・・、私の名前・・、私の・・、)
(私の名前、名前・・、分からない、思い出せない!)
(どうして?私は誰?どうして私はここに居るの?)
(何で?何で何も思い出せないの!?)
私はもう訳が分からずパニックになりそうだった。
(怖い!!!私は誰???助けて!!!)
すると再び闇の中から、抑揚の無い、男とも女とも知れない声が響いた。
「落ち着いてください。それで良いのです。」
「あなたは何らかのアクシデントにより、身体からその魂が離れてしまわれた迷える魂。記憶が無いのは、実体から突然離れてしまった事による一時的な乖離障害です、何の問題もありません。そういう方は間々居られます。」
「ここはあなたのような、はぐれてしまわれた魂を救う鏡の間。別名、顔捜しの間。」
「顔捜し?」
「そうです。」
「ご安心ください。あなたの身体も魂もまだ天寿を迎えられてはおりません。よって、あなたは再びあなたの身体に戻る事が出来ます。これから幾つかの身体をお見せ致しますので、あなたはその中からあなたの身体をお捜しください。身体を見付けられれば、その時点でご自身の記憶も取り戻せますのでご安心ください。」
「何かご質問は?」
質問と言われても、何が何やら分からないのに、質問の仕様が無かった。
「・・・」
「無いようでしたら、早速始めさせて戴きますが、宜しいですか?」
(はい。)
私はそう答えるしか無かった。




