29 遊ぶのも本気です
「すっごく可愛い! 水着、めちゃめちゃ似合ってる!」
「え……」
「その可愛さに俺がキャパオーバーしただけだから! さすが世界で一番可愛い雨宮さん! 水着姿も世界一だし、チョイスも最高だ! 新たな雨宮さんの魅力も全開で、俺としてはナンパに合わないか気が気じゃな……っ」
「もういい! もういいよ、晴間くん!」
必死に言葉を募っていたら、雨宮さんが茹でタコ状態になっていた。白い肌が太陽の下で真っ赤に染まっている。
いつの間にか家族連れのお子さんまでこちらをじっと見ていて、俺はヒートアップしてバカでかい声で雨宮さんへの愛を発信していたらしい。
「あらあら、晴間くんたらやるわね」
「ちゃんといっぱい褒められるのが、ハレくんのいいところだよね!」
「……バカップル、鬱陶しいです」
会長にはからかわれ、雷架にはパチパチと拍手され、雲雀には毒を吐かれた。薄井先輩には生温い目でポンと肩を叩かれ、俺は正気に戻る。
「わあっ! ご、ごめん!」
ようやく雨宮さんの腕を離し、ペコペコ平謝りだ。
俺はhikariになれば最強に可愛いが、ただの光輝である今の俺はスマートさもなくカッコ悪いことこの上ないだろう。
hayateのスマートな王子様ブームを見習いたい。
「あ、謝らなくていいよっ! 水着、勇気を出して選んだから……可愛いって思ってくれて嬉しいな」
「雨宮さん……」
頬に火照りを残して笑う雨宮さんに、今度は俺が赤くなる。
向かい合って照れ照れしている俺たちは、まさに雲雀の称した『バカップル』で間違いない。
「はーい! ときめきタイムしゅーりょー!」
「うわっ!」
ドーンと横から突進してきたのは雷架で、甘い空気が一気に霧散する。
もはやコイツが空気を読まないのはわざとなのか⁉
「みんなでビーチバレーしようよ! チーム分けして対決しよっ! ビーチバレー、ビーチバレー!」
「わ、わかった! してやるから!」
「あとウォータースライダーも!」
スイカ柄のボールを持ったまま纏わりついてくる雷架は、ポメラニアンとかの小型犬を彷彿とさせる。
遊んで遊んでと無邪気なやつ。邪険に扱い切れないから厄介だ。
調子を取り戻した雨宮さんは「小夏ちゃんったら」とクスクス笑っている。友達大好きで可愛い。
まだ正直、水着の雨宮さんには心臓が慣れないが……満喫しないと損だよな?
「行こうか、雨宮さん」
「うん!」
それから俺たちは、リア充よろしく目一杯楽しむことにした。
まずは雷架の希望通り、プールを横目に芝生エリアでビーチバレーをしたのだが、ほぼ雷架が無双して終わった。
こんな一方的なゲームがあっていいのか?
そこからは各々好きな行動に移って、お昼の時間にフードコートで再集合する運びとなった。
雷架と雲雀は『アトラクション島』へ。その島にはウォータースライダーが五種類もあり、雷架は全制覇を狙うらしい。
雲雀はお目当ての特別なクリームソーダを探しに行く前に、雷架に拉致られていた。
「ちょっと、離してください雷架先輩! 私はクリームソーダを……っ!」
「ヒバリンは雷架ちゃんと遊んでもらうの!」
ズルズルと引き摺られて行く雲雀は憐れだったが、本当に嫌がっていたら雷架は強制連行などしない。
密かに雲雀がウォータースライダーの方をチラチラ見て、やってみたそうにしていたのをバッチリ気付いていたのだろう。
素直で強引な雷架と、素直じゃない意地っ張りな雲雀の組み合わせはやはり相性がいいようだ。
「僕は疲れたし、温浴プールにいるよ。最近は腰痛が酷いし、hikariちゃんの看板を見てゆっくりしたい……」
そう腰を擦る薄井先輩は『リラックス島』へと旅立った。そこは癒されたい大人向けで、水着で浸かれる温泉がいろいろ取り揃えてある。
やっぱり理由がお疲れサラリーマン染みているんだよな……。
「私は何処へ向かおうかしら……あら」
会長は途中でスマホを確認して、一瞬だけ片眉を上げてから、亜麻色のウィッグを翻してプールに背を向けた。
「私は少しだけ外すわ。雨宮ちゃんと晴間くんも恋人同士、プールでイチャイチャして来なさい」
「イッ……!」
お節介な親戚みたいなことを言い残して、会長は屋内の方に去っていた。
取り残された俺と雨宮さんは、ほんのり気まずげに顔を見合わせる。
「ええっと……王道に流れるプールでも行くか? 『スイスイ島』にあるって」
「し、島の名前ってどれも個性的だよね! 私もそこに行きたいな」
「じゃあ……っ」
ぎゅっ!





