26 いざ!夏へ
あっという間に、予定していたプールの日。
連日の炎天下で喚くセミの大合唱をBGMに、俺たちは昼頃に学校の裏門前で集合した。ここに今いるメンバーは俺に雨宮さん、雷架に雲雀だ。
肩には各々プールバッグを担いでおり、準備は万端である。
「久しぶりだな、雨宮さん」
「うん! 晴間くん忙しそうだったから……元気だった?」
門柱横に立つ大木が陰を作ってくれている中、雨宮さんと感動の再会を果たす。
大袈裟かもしれないが、こんなに会えない日が続くとは想定外だったのだ。ひとえにhayateとのコラボの反響が大き過ぎた故である。
案件を受けたのは俺なので、自分で巻いた種とはいえ……撮影やらインタビューやら、引っ切り無しなスケジュールだった。
マジで女装だけして夏が終わるかと……。
「忙しくはあったけど、まあ元気かな。雨宮さんは夏バテとかしてないか? ちょっと瘦せたんじゃないか?」
「夏バテは平気だよ。瘦せたのは……水着のために短期間プチダイエットというか……」
「ダイエット?」
そんなもの必要ないと思うが、夏の体型管理をしたい女心は俺も理解できる。無理をしていないなら、止めろと言うのは野暮か。
メッセージのやり取りは毎晩欠かさずしていたとはいえ、こうして顔を合わせて話すと相手のことがよくわかっていい。
なにより生の雨宮さんは最高だ。
存在そのものが可愛い。
雷架チョイスだろうパンツスタイルのカジュアルな私服で、とんでもセンスじゃないのもホッとした。
いい仕事をしたな、雷架。
「ただえっと、体調不良とかではないんだけど……」
フッと、雨宮さんが睫毛を伏せる。
きめ細かな肌には木漏れ日が差している。
俺もそうだが、あまり日焼けしないタイプのようで白さが眩しい。彼女は上目遣いで攻撃を仕掛けて来た。
「……晴間くんと会えなくて、寂しかったかな」
「ぐあっ!」
「晴間くん⁉」
威力は抜群で、俺は心臓を押さえて呻いた。
「す、すまん……生雨宮さんへの耐性が薄れていたみたいだ……ノーガードで可愛さの暴力を食らっちまった……」
よろめく俺を、雨宮さんは「え? え?」と戸惑いながらも支えてくれる。
こんな調子で、雨宮さんの水着姿を拝んで俺は生きて帰れるのか……?
ここに来て危機感を抱き始める。
「……まったくバカップルしていますね」
「アチアチだねー」
雲雀が呆れて、雷架が手を叩いて笑っているうちに、予定時刻ピッタリに会長の迎えの車がやって来た。
THE・セレブ御用達、車体の長い白のリムジン。
なんという絵に描いたお嬢様ムーブ。
「は、ははは晴間くん! これって私が乗ってもいいの……⁉」
「……俺もさすがにビビってる」
ビクビクする雨宮さんを筆頭に、俺たちは慄きながら乗り込んだ。
いや、雷架だけは「あはっ! 一反木綿みたーい!」と例える肝っ玉の据わりっぷりだったが……。
「みんな揃ったわね。絶好のプール日和でよかったわ」
車内は空調が完璧で涼しく、ローテーブルを囲むようにラウンド型にソファが配置されている。
そのソファで悠々と足を組んで座る会長とは、俺は久しぶりでもなんでもない。hayateとしてほぼ連日会って仕事をしていた。
そんな会長の隣には、よく見るともう一人ひっそりと座っている。
「紹介が遅れたわね、副会長の薄井くんよ。三年生で、私のクラスメイトでもあるわ」
「よ、よろしく……」
ははっと力なく笑う薄井先輩は頬がコケた痩せ型で、失礼ながら社会に疲れたサラリーマンのような雰囲気があった。
なんでも事務作業のプロフェッショナルで、その能力を見抜いた会長が生徒会に引き入れたらしいが、それも強引だったに違いない。雲雀と会長という我の強いメンツに囲まれ、さぞ胃を痛めていることだろう。
出会って秒だが彼の幸せを祈る。
「――それじゃあ、出発といきましょう」
会長の合図で、雷架いわく一反木綿のようなリムジンは発進した。





