25 皆でプールに決まりました
「あそこのプール施設、確か売店で『真夏の奇跡♡弾けるメロンクリームソーダ』っていうのを販売するぞ。リニューアルオープン記念の特別メニューで」
「クリームソーダ……!」
雨宮さんがどら焼きマニアなら、雲雀はクリームソーダハンターだ。
ピクッと雲雀の片耳が動く。
「雲雀が行かないなら、俺たちで飲むかな……」
雷架の悲惨な回答用紙が載る机に手をつき、俺はわざとらしく煽ってみせる。素直じゃない奴には、このくらいがちょうどいい。
フルフルと震えていた雲雀が、やがてツンッとそっぽうを向いた。
「そ、そこまで言うなら! せっかくの機会ですし? 生徒会の仕事なのに不参加もよくないですし? 仕方ないから参加してあげます! ほだされたわけでも、クリームソーダの誘惑に負けたわけでもありませんから!」
早口の雲雀はやっぱり素直じゃない。
なにはともあれ、これで全員参加だ。
三年の副会長さんにも許諾を得ており、「荷物持ちとかさせてもらうよ……ははっ」とのこと。破天荒な会長に振り回されているのか、苦労人の匂いがする。
「じゃあ決定ね!」
当の会長は晴れやかな笑顔だ。
すべて彼女の思惑通り事が運んだもんな。俺も雨宮さんの水着が見られそうで助かる、命が。
「私個人としても、みんなで思い出作りがしたかったの。中学までは、普通の学生らしい夏って過ごしたことがなかったから」
「会長……」
「ふふっ! いいわね、学生らしい思い出作り」
会長の言葉は、これまでの彼女の環境を知る俺だからこそ、深い実感が籠っているように聞こえる。素直によかったなって。
感慨深く会長を見つめていたら、くいっと制服の裾を引かれた。
犯人は雨宮さんだ。
「ん? どうかしたか?」
「は、晴間くんは、あの……会長さんのこと、えっと……」
雨宮さんはなにやら、むにゃむにゃとした表情になっている。
なんでだろう、会長がなんだ?
その心の内を確かめたかったが、すぐに「な、なんでもない! ごめんね」と裾を離される。
「雨宮さ……」
「よおおおおおし! 雷架ちゃん、フルパワー!」
追求しようとした俺を、盛大に邪魔してくれやがったのは雷架だ。回答用紙に向かってバリバリとペンを走らせ始める。
間違えた答えを直しているのか。その心意気はよし。
だが空気読まねぇな、コイツは!
「よければ私も、勉強を見て差し上げましょうか? これでも教えるのはけっこう得意なのよ。雲雀ちゃんもね」
有難い申し出をしてくれた会長は、流れるように雲雀も巻き込んだ。
「私は教育側の経験なんてありませんから! そもそも後輩に教えられるとか、さすがに雷架先輩にもプライドというものが……」
「フライド? フライドチキン?」
「なさそうですね、プライド」
俺もないと思うぞ。
雨宮さんはもうむにゃむにゃを引っ込めて、雷架の隣で応援に回っていた。
「が、頑張ろうね、小夏ちゃん! 私も妹たちの宿題とかよく手伝っているし、いくらでも付き合うから……!」
「うん、がんばる! プール絶対行く!」
「その意気だよ!」
フレーフレー!と声援を送る雨宮さんに、俺もとことんまでやってやるかと気合いを入れ直す。
これも青春、なのかな。
残りの放課後は四大美少女たちと共に、雷架の試験対策にあれこれ奔走して過ぎていったのだった。





