24 みんなでプールですか?
すべては会長が言い出した、「晴間くんは可愛いカノジョと、素敵な一夏の思い出を作りたくはないかしら」という悪魔の囁きが発端だ。
例えば海やプールに行って、水着な雨宮さんは見たくないのか、と。
俺の答えはひとつ。
心から見たい。
だけど奥ゆかしい雨宮さんを、そういう場に誘うのは難易度が高かった。あれだ、俺の下心も透けて見えてしまう。
そこで、俺が会長……hayateとのコラボをOKすれば、会長がそのお膳立てをしてくれることになったのだ。
生徒会の活動の一貫という大義名分でプール施設のことを持ち出し、雨宮さんが誘いに応じやすい状況を作ってくれるという。
思考時間は約二秒。
俺はあっさり負けて、気付けば頷いていた。
――夏は人をバカにする。バカ上等である。
そんな裏の経緯があったわけだが、会長の提案に真っ先に反応したのは、何故かおバカの雷架だった。
「えー! いいな、いいな! 楽しそう! 雷架ちゃんも行きたい行きたい!」
椅子から立って挙手するコイツは一番関係ない。
生徒会メンバーではないだろう、お前。
しかし、会長は鷹揚に頷いた。
「晴間くんたちの同級生の、雷架小夏さんね。いろんな運動部で助っ人としてご活躍されていることは、私も耳にしているわ。いたら面白そうだし、参加を許可しましょう」
そんな簡単に!
どんぐりのような雷架の目が輝く。
「やった! 会長さんふとっちょ!」
「太っ腹と言いたいのかしら? まあ許すわ」
ガバッと雷架は、雨宮さんにもバッグハグを決める。
「アマミンとプール! 嬉しいな!」
「わ、私も……小夏ちゃんと夏休みに遊べるの、嬉しいよ」
控え目に雷架と頬をくっつけ合う雨宮さんの可愛さ、地球を救う。雷架が意図せず、雨宮さんの参加表明も引き出してくれて有難い。
グッジョブ、アホの子!
だが俺はあえて水を差しておく。
「次のテストで赤点取って補習になったら、たぶん行けないぞ。頑張ったら、プールは『ご褒美』だな」
「ごほーび! 雷架ちゃん、燃えてきた!」
やはり俺の推測通り、雷架は危機感を煽るより、達成報酬がある方がモチベーションも上がるタイプのようだ。
これで勉強にも本気になってもらいたい。
反して雲雀だけはツリ目をさらにつり上げて、お人形さんの如き美貌に憮然とした表情を載せた。
「勝手に進めないで頂きたいのですが……私はまだ、参加するとは言っていませんよ。夏休みはバイトもあります」
雲雀らしいといえば、雲雀らしい渋り方だ。
好んでプールではしゃぐ性格ではないし、彼女はアメアメの姉妹ブランドであるロリィタ服専門店でバイトをしている。
乙女ワールドを全開にした格好の雲雀は、今やそこではカリスマ店員扱いだそうだ。
あそこの店長とは俺も面識があるが、むしろ雲雀を「シフトなんて気にしなくていいから行ってきなさい!」って送り出しそうだけどな。フルーツ柄のロリィタ服を愛する気さくな方である。
「あらあら、そんな態度でいいの? 晴間くんだっているのに」
「べっ……別に私は! 晴間先輩なんていてもいなくても!」
ニヤニヤ迫る会長に、雲雀はシャー!と威嚇する猫のように言い返す。
なんで俺を引き合いに出した?
いてもいなくてもって、地味に酷いぞ。流れ弾は止めてくれ。
「えー! ヒバリンも行こうよ!」
「私も……雲雀さんと、一緒に行きたいな」
「で、ですから私は……」
ここで雷架と雨宮さんの、汚れのない純粋な懇願攻撃。強烈なコンボに、雲雀が揺れているのがわかる。
もうあと一押しと見た。
そういえば……。





