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【書籍3巻&コミカライズ連載中】世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。  作者: 編乃肌
四章

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23 雷架さんは死んでいる

 荷物は置きっ放しで、俺と雨宮さんは隣の教室へ移動した。そこではど真ん中の席で、雷架が机に突っ伏して死んでいた。


「こ、小夏ちゃん! 大丈夫⁉」

「アマミン……雷架ちゃんはもうダメかも……」


 救急隊員の雨宮さんが走り寄ると、雷架はのろのろと顔を上げた。

 元気が取り柄のはずがどんより沈み切っている。稲妻マークの髪飾りで留めた髪は、生気を失って萎れていた。


「問題は解けたのか?」

「これだけ……」

「おい! ほぼ真っ白じゃねぇか!」

「ううううう! だってわかんないんだもん!」


 雷架が差し出したプリントを受け取れば、雨宮さんお手製の英語の基礎問題は、解答欄がほぼ白紙だった。

力試しにひとりで解かせるために、十五分間測っていたのだが……。

 一応ミミズがのたくったような跡はあり、努力の欠片は伺える。


「ごめんね、アマミンンン! 私のために作ってくれたのにっ!」

「わ、私こそごめんね! ちょっと難しかったかも!」

「すっごく難しかったー!」


 うわあああん!


 なんて泣きつく雷架の頭を、雨宮さんは慈愛の精神で必死によしよししている。羨ましいぞ雷架そこ替われ。


 驚くほどアホの子な雷架は、俺以上に赤点の危機だ。

 スタジオ見学なんてしている場合ではなかったのである。俺の正体に関する話は一通り終えているが、正直それどころじゃない。


「いよいよ雷架ちゃん、ピカリさんとお別れの予感⁉」


 雷架の宝物である一眼レフのカメラは、名をピカリさんと言う。


 あまりにも孫の成績が酷いため、雷架のおじいさんはそれこそ雷を落とした。次の試験でひとつでも赤点を取れば、カメラは没収だそうだ。


 これはそもそも、教え方を変える必要があるのか……?

 当人が勉強に身が入っていない気もする。


 雷架みたいなタイプは『出来なかったら罰がある』という危機感より、『出来たらご褒美がもらえる』という目標がある方がいいのかも……。

 

 腕を組んで方向性から考え直していると、新たにふたつの声が聞こえた。


「あら、偶然ね」

「……御三方でなにをされているのですか」


 黒板側のドアから入って来たのは、会長と雲雀だった。


 会長はもちろんウィッグに黒のカラコン着用で、雲雀はなにやらバインダーを抱えている。会長とはhayate関係で案件は進んでいるが、会うのはゲーセン以来だ。


「コイツの勉強を見ているところで」


 入って来た生徒会組に、俺は椅子に座る雷架を指差した。雷架はアホ面で舌を出したままだ。

 たちまち雲雀は冷ややかな目になる。


「雷架先輩、頭の残念さはお変わりないようですね」

「ヒバリンったらシンサツ!」


 診察……おそらく、辛辣と言いたいのだろう。


 雷架と雲雀は出身中学が同じであり、家が近所という繋がりがある。

 それにしても、改めて凄いな。

 今ここには校内四大美少女が全員揃い踏みな上、世界で一番可愛い俺もいるわけか。この世の楽園だな。


「えっと、会長さんたちは生徒会のお仕事中ですか?」

「ええ、旧校舎の見回りよ。でも晴間くんと雨宮ちゃんが揃っているなら、ちょうどよかったわ。生徒会入りをふたりとも承諾してくれたわけだし、夏休み中に歓迎を兼ねて交流会を企画したいと思っていてね」


 パンッと両手を合わせて、会長はそんな話題を嬉々として出した。雨宮さんも生徒会加入の返事は済ませたと俺も聞いている。


 そして、交流会。


 これこそ例の取引に関することなため、俺は「来たか!」と体をそわつかせる。


「ど、どんなことをするんですか……?」

「会長、私も初耳ですが」


 大きな瞳をパチパチと瞬かせる雨宮さん(可愛い)と、まだ知らなかったらしく眉を寄せる雲雀。

 会長は春風の如き微笑みを絶やさない。


「新しい生徒会メンバーで、プールに行くなんて素敵じゃない? 七月の最終日に、うちの親族が運営する大型プール施設がリニューアルオープンするの」


 なんかもう、このあたりの事業は軒並み彼女の一族が牛耳っている気がする。悪の組織かな。

 

 会長が「そこで過ごしたら、最高な一日になりそうじゃない?」と、俺に目配せする。交流会が決行されるかどうか、重要な局面だ。


 ゲーセン帰りに交わした会話を思い出す。

 俺と会長の取引内容は……。

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