22 プロジェクトが始まってしまうようです
会長と出掛けた翌日には、美空姉さんから興奮しきった電話が入った。
渋っていたhayateとのコラボ案件を俺が受けたことは、会長側からアメアメ本社に連絡が行ったようで、俺から伝えるまでもなかったということだ。
美空姉さんは早口に捲し立てた。
「プロジェクトチームは早急に立ち上げるわ! 世間へのお披露目は手始めにWEB上で、来月末には大々的に行いたいところね!」
「ス、スケジュールの問題は……?」
「そんなのどうとでもするわよ! 今の私、アドレナリンがヤバいから! あ、なんか知らないけど生徒会にも入るんですって? コウちゃんのカノジョには今度会わせてね! 約束!」
「ドサクサに紛れて約束を取り付けないでくれ!」
「学生を謳歌しながら仕事も頼んだわよ! よろしくね、我が社の絶対的エースモデルのhikari様!」
こっちの話は一切聞かず、無常にも通話は切れた。
そんな感じであれよあれよと話は進み、三日後には諸々の案件が進んでいた。
なんとなく流れで生徒会入りも許諾をもらい、俺の波乱万丈そうな夏は本格始動したのだった。
「な、なんだか大変なことになっていたんだね……」
「とにもかくにも怒涛って感じかな。いや、会長の悪魔の囁きに負けた俺が全部悪いんだけど」
「む、無理はしちゃダメだよっ」
机を挟んで向かいに座る雨宮さんは気遣わしげで、天使であり俺の癒やしだ。手を合わせて拝みたくなる。
週明けの月曜日。
ここは、旧校舎の空き教室。
窓際の席で外を見下ろせば、校門に向かって下校する生徒たちがチラホラ視界を掠める。今日も今日とて太陽は眩く、みんな暑そうにしていた。
そんな中、俺と雨宮さん……あとこの部屋にはいないがオマケのもう一人は、夏休み前に行われるテストに向けて勉強中だ。
机の上には数学や歴史の教科書が開かれている。
俺は英語の成績はいいが、他が微妙だ。下手に赤点でも取ろうものなら、夏休みに補講が設けられる。
そうなると青春や仕事をする以前に、美空姉さんと会長にシバかれること確定だろう。そこで補講回避のために、可愛い上に勉強もできる雨宮さんに、頭を下げて教えを受けているわけである。
「でもまさか、あのhayateが会長さんで……hikariさんとプロジェクトだなんて……! 私ってかなり、重要な機密事項を聞いているんじゃないかな?」
「そんな大袈裟なもんじゃ……いや、機密事項といえば、まあ機密事項か?」
ゴクリと深刻な顔で雨宮さんは息を呑んだ。
アメアメにとってもまだ社外秘のビッグニュースには違いない。
だが会長の正体を含め、このことを雨宮さんにだけは話していいと、むしろ話せばどう?と促したのはその会長だ。
なんでも「晴間くんはカノジョに隠し事は出来ないタイプだろうし、その方が面白いことになりそうだから」らしい。美空姉さんも「コウちゃんも誰かに相談したくなったら、絶対に信頼出来る相手ひとりくらいならいいわよ!」と言っていた。
悩んだが勉強の合間に、雨宮さんには報告しておいたわけである。
「ただね、いっこだけ……会長さんとの取引内容は気になっちゃうかも」
「うっ、それは……」
マジで己の欲望に流されただけなので、その欲望先の当人である雨宮さんの無垢な眼差しが辛い。
ピピピッ!
唇を彷徨わせていたら、机に伏せていたスマホのアラームが鳴った。ジャスト十五分間、タイマー機能で測っていたのだ。
俺はこれ幸いと立ち上がる。
「さ、先に、アイツの様子を見に行こうか! 後でちゃんと話すから!」
「う、うん」
俺たちはアイツ……雷架のもとへと向かった。





