20 これは運命の出会いですか
運命の出会い……が、俺?
「ど、どういう……」
「たまたま手にした雑誌で、hikariを見たの。世間の流行りに疎かった私は、ファッション雑誌を見るのも初めてでね。そこに載っていた貴方のインタビューに感銘を受けたのよ」
Q.ズバリ! hikariの可愛さの秘訣は?
A.まずは自分に自信を持つことですね。私は『どんな自分にでもなれるんだ』と信じて、いつもカメラの前に立っています。
「どんな自分にでもなれるって言葉がね、お父様のせいで自分を見失っていた私の背を押してくれたのよ」
会長は懐かし気に目を細めた。
……その雑誌のインタビューは覚えている。
『どんな自分にでもなれる』と言ったのは、地味な男子もこんなに可愛い女の子になれんだぜ……という、副音声込みのことだった。
まさか会長にきっかけを与えたのが、俺=hikariだとは。
人生の転換期って、いつ訪れるかわかんないものだよな。
「ちょっと生まれ変わってみようという気になってね、そこからは吹っ切れたように家を出たの。お父様から離れたくて、今はマンション住み。気分転換に髪を短く切ったら、自分が意外と中性的でとんでもなくカッコいいことも発見してね」
「自信過剰ですね」
「晴間くんには言われたくないわ」
確かに会長は女性にしては背が高く、胸はあるがしなやかな体型は細身の男性っぽくもある。顔立ちも意外と中性的で、俺はココロさんのメイク技術を知っているため、いくらでも化けられることもわかっている。
「『世界で一番可愛い』モデルがいるなら、『世界で一番カッコいい』モデルがいてもいいかもってね」
アイスキャンディーを舐めながらニヤリと笑う彼女は、ついでにこれを父への復讐にすることにしたという。
hikariと並ぶほどに有名になって、その絶世の美少年が蔑ろにした娘だとわかれば……父は腰を抜かすだろう、と。
「あれだけ散々、男が欲しいってほざいたんだもの。なってやろうじゃないってね。クソ親父に一泡吹かせてやるために、私は男装女子になることにしたの。普段のウィッグとカラコンは正体隠しのためよ、案外わからなかったでしょう」
「まったく……でも、俺の正体にはいつから? 学校同じなのはたまたまですよね?」
「たまたま、という名のこれまた運命ね。性別を偽る者同士、本能が共鳴したとでも言いましょうか。確信したのはついさっき、スタジオで会った時だけど」
会長は最終目標も教えてくれた。
hayateが『神風リゾート』のアンバサダーになって、そのタイミングで引退して同時に父の前で正体を明かすそうだ。
まだまだ計画の半ばだろうが、声を弾ませる会長は心から楽しそうだった。ブロック塀の上を行く真っ黒な野良猫が、応援するようにニャアと鳴く。
「ただ引退はタイミングを見計らって、hayateのファンを悲しませないように配慮はしなきゃね」
「引退、ですか……」
けっこうファン想いな面もある会長の呟きに、俺の胸に哀愁に近い感覚が広がる。
普通に考えたら俺も会長も、特大の秘密を抱えてモデル活動をしている。きっと秘密の寿命は長くない。
hikariを卒業する日なんて、考えたこともなかったな。
「だからね……まあ! 垂れているわよ、晴間くん」
「え? うわっ!」
少々ぼんやりしていたら、アイスキャンディーがぽたぽた溶け出していた。パイン味の液体が道路に水玉模様を作っている。
「って、会長もですよ! 服!」
「あら」





