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【書籍3巻&コミカライズ連載中】世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。  作者: 編乃肌
四章

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20 これは運命の出会いですか

 運命の出会い……が、俺?


「ど、どういう……」

「たまたま手にした雑誌で、hikariを見たの。世間の流行りに疎かった私は、ファッション雑誌を見るのも初めてでね。そこに載っていた貴方のインタビューに感銘を受けたのよ」


 Q.ズバリ! hikariの可愛さの秘訣は?

 A.まずは自分に自信を持つことですね。私は『どんな自分にでもなれるんだ』と信じて、いつもカメラの前に立っています。


「どんな自分にでもなれるって言葉がね、お父様のせいで自分を見失っていた私の背を押してくれたのよ」


 会長は懐かし気に目を細めた。


 ……その雑誌のインタビューは覚えている。

『どんな自分にでもなれる』と言ったのは、地味な男子もこんなに可愛い女の子になれんだぜ……という、副音声込みのことだった。


 まさか会長にきっかけを与えたのが、俺=hikariだとは。

 人生の転換期って、いつ訪れるかわかんないものだよな。


「ちょっと生まれ変わってみようという気になってね、そこからは吹っ切れたように家を出たの。お父様から離れたくて、今はマンション住み。気分転換に髪を短く切ったら、自分が意外と中性的でとんでもなくカッコいいことも発見してね」

「自信過剰ですね」

「晴間くんには言われたくないわ」


 確かに会長は女性にしては背が高く、胸はあるがしなやかな体型は細身の男性っぽくもある。顔立ちも意外と中性的で、俺はココロさんのメイク技術を知っているため、いくらでも化けられることもわかっている。


「『世界で一番可愛い』モデルがいるなら、『世界で一番カッコいい』モデルがいてもいいかもってね」


 アイスキャンディーを舐めながらニヤリと笑う彼女は、ついでにこれを父への復讐にすることにしたという。

 hikariと並ぶほどに有名になって、その絶世の美少年が蔑ろにした娘だとわかれば……父は腰を抜かすだろう、と。


「あれだけ散々、男が欲しいってほざいたんだもの。なってやろうじゃないってね。クソ親父に一泡吹かせてやるために、私は男装女子になることにしたの。普段のウィッグとカラコンは正体隠しのためよ、案外わからなかったでしょう」

「まったく……でも、俺の正体にはいつから? 学校同じなのはたまたまですよね?」

「たまたま、という名のこれまた運命ね。性別を偽る者同士、本能が共鳴したとでも言いましょうか。確信したのはついさっき、スタジオで会った時だけど」


 会長は最終目標も教えてくれた。

 hayateが『神風リゾート』のアンバサダーになって、そのタイミングで引退して同時に父の前で正体を明かすそうだ。

 

 まだまだ計画の半ばだろうが、声を弾ませる会長は心から楽しそうだった。ブロック塀の上を行く真っ黒な野良猫が、応援するようにニャアと鳴く。


「ただ引退はタイミングを見計らって、hayateのファンを悲しませないように配慮はしなきゃね」

「引退、ですか……」

 

 けっこうファン想いな面もある会長の呟きに、俺の胸に哀愁に近い感覚が広がる。

 普通に考えたら俺も会長も、特大の秘密を抱えてモデル活動をしている。きっと秘密の寿命は長くない。


 hikariを卒業する日なんて、考えたこともなかったな。


「だからね……まあ! 垂れているわよ、晴間くん」

「え? うわっ!」


 少々ぼんやりしていたら、アイスキャンディーがぽたぽた溶け出していた。パイン味の液体が道路に水玉模様を作っている。


「って、会長もですよ! 服!」

「あら」

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書き下ろしシーンも盛り沢山!なによりイラストが素晴らしい(◍>◡<◍)
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