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【書籍3巻&コミカライズ連載中】世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。  作者: 編乃肌
四章

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19 会長様とゲーセン

「あー! 落ちた、落ちたわ! あとちょっとだったのに! 晴間くん、この機械はカードか小切手は使えないのかしら?」

「小銭オンリーです……クレーンゲームなんで」


 店内は雑多な音であふれ返っている。筐体のガラスを覗く会長のお金持ちボケに、俺は律義にツッコミを入れた。


 ここはゲームセンター。


 スタジオから徒歩三分と近く、ビルの狭い一階にクレーンゲームやプリクラ、音ゲーの機械などが犇めくように置かれている。


 会長は入店時からはしゃぎにはしゃぎ、すでにあらゆるゲームで遊びまくった後だ。天才肌な彼女は、初めてやるはずの格ゲーで奇跡のコンボを決め、モグラを叩くゲームでは最高点を叩き出した。

 

 ただクレーンゲームとは相性が悪いようで、先ほどから課金を続けてもマスコットが取れないでいる。


「もう諦めましょう……こういうの、簡単には取れないようになっているんですよ」

「夢がないわねぇ」

「そんなものです」


 それでも会長は諦めず、クレーンゲームにお金を落としまくって、辛うじてショボい景品をいくつか取った。

 彼女はそれでも満足せず、ノリノリで俺の腕を取る。


「ほら、まだまだ時間が許す限り遊びましょう!」

「はいはい……」


 その後も会長はダンスゲームやシューティングゲームなどでも遊び倒した。


 会長はプリクラも撮りたそうだったが、これは雨宮さんに悪い案件だということでナシに。だいたい俺たち、さっきまで写真はプロにカシャカシャ撮られていたしな。


 どちらも偽りの姿で、だけど。


 思えばただゲーセンで遊んだだけで、そのへんの『お話し合い』は会長と微塵もしていない。


「それでどうして……あー、会長は男装してメンズモデルを?」


 スタジオへの近道を選んで、細い路地を並んで歩く。大通りより陽が当たらずほんのりと涼しい。

 人気のない道を行くのは、俺たち以外では野良猫くらいだ。


「あら、聞きたい?」

「聞くために出掛けたんだと思っていました」

「出掛けたのは単に、私が晴間くんと遊びたかったからよ」


 ペロリと、会長は赤い舌でアイスキャンディーをひと舐めする。

 汗ばむ俺たちの手には、同じアイスの棒が握られていた。俺がクレーンゲームのアイスキャッチャーで取ったもので、会長はスイカ味、俺はパイン味だ。


 会長いわく『食べ歩き』も庶民への憧れのひとつらしい。


「私が男装を始めた理由なんて、なんてことないのよ。強いていうなら、当てつけ? 報復? 復讐?」

「単語がなんてことなくもなさそうですが?」

「面白くもない話よ」

 

 カラコンで黒くした瞳を細め、会長はつまらなさそうに語ってくれた。


 彼女の父は祖父の代から続く『神風リゾート』のトップ。日本各地に点在する高級旅館や有名ホテルの元締めで、他にも美容や福祉、飲食や農業と幅広い分野の多角経営で成功を収めている。経済界の大物だ。

 しかし会長は性別が『女である』というただそれだけで、父の不興を生まれた時から買っていた。


 父は跡継ぎ問題にうるさく、子供には男子をご所望だったらしい。期待に反して生まれた会長に「どうして男じゃないんだ」とか「お前が男だったら……」とか、事あるごとに文句を吐いたという。


「何時代よって感じよね」


 会長は忌々し気に吐き捨てた。


 挙句、男児として生まれなかったなら、せめて完璧な淑女でいろなど勝手な要望を押し付けられたらしく……。

 俺は月並みな感想だが「大変だったんですね」としか零せない。


 そこで会長はニッと笑顔を見せる。


「でもね、運命の出会いがあったの……。晴間くん、あなたよ」

「へ?」

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書き下ろしシーンも盛り沢山!なによりイラストが素晴らしい(◍>◡<◍)
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