18 浮気じゃないんです
長らくお待たせして、大変申し訳ございません……!
連載再開です!
サラシを取った大きな胸が弾む。
そこにいたのは奇跡の美少年・hayateではなく、楚々とした淑女であった。
ウィッグだと判明した長い亜麻色の髪はハーフアップにされ、レースの白いリボンが結ばれている。目もわざわざコンタクトを入れたのか、青から黒だ。
トップスは半袖ブラウスで、襟元や袖口には臙脂の線入り。ロング丈のベージュのチェックスカートは落ち着いた広がりで、質がよく品もいい。
足元は踵の低い、リボンと同じ白のパンプスを履いている。
これぞお嬢様コーデ。
麦わら帽子を被ったら、別荘の建つ避暑地とかにいそうである。
「さっそく庶民的なところへ行きましょうか」
「具体的にどこが希望ッスかね……?」
「そうねぇ」
ほっそりとした指先を顎に当て、会長は思案気にする。
「ファミレスとかバーガーショップも気になるけれど……」
「え⁉ 会長、どっちも行ったことないんスか⁉」
学生のたまり場とも言える店だが、それも庶民の世界での話なのか。
放課後に立ち寄ったりしないのかな……と思ったが、会長は登下校が車での送迎だと聞いたことがある。もちろん高級車での。
「できなくはなかったけど、ひとりだと心許ないじゃない? 私は友人と行きたいのよ。晴間くんは生徒会メンバー候補な上に、『同士』だし」
女装男子と男装女子。
いつの間にか同志士認定されてしまったらしい。
「それなら、どっちか行ってみます?」
そう提案したものの、このスタジオの周辺には生憎ファミレスもバーガーショップもなかった。
あるとしたら……。
「……は、どうですかね?」
「いいじゃない! そこも未経験だわ!」
俺の提案に、会長はパッと花が綻ぶような笑顔を見せた。
学校にいる時の人を食った雰囲気とも、hayateの時の紳士な振る舞いとも違う。年相応の女の子な反応で、いろんな顔を持つ人だなあと感心する。
雲雀もツンドラな普段と、ロリィタ好きな面があるしな……生徒会女子はギャップ推しだな。
「ふふっ! そうと決まれば、善は急げね!」
「うおっ!」
むぎゅうと惜しみなく胸を押し付ける形で、会長は強引に俺の腕を取った。一点に集中した柔らかさがヤバい。
ち、違うんだ、雨宮さん……!
これは不可抗力なんだ!
後ろめたさからカノジョに脳内で言い訳するも、イマジナリー雨宮さんの頬は膨れるばかり。ぷっくぷくだ。
「あの、会長! 少し離れて……!」
「楽しみねぇ、初めて記念日だわ。まずなにからしようかしら?」
「話聞いてください!」
ウキウキな会長は制止の声など右から左。俺たちは『庶民的なところ』へ成り行きで向かうことになった。
どうしてこうなった……?





