12 雷架さんは勘がいい
ここにいるはずのない雷架の姿に、俺は大いに動揺した。
「んん? このお部屋でいいのかなっ?」
扉の前でキョロキョロしている雷架は、そこの部屋に入っていいのか悩んでいるようだ。胸元にはよく見たらスタッフ証をつけていて、さすがに勝手に潜り込んで来たような事態ではないことがわかる。
相変わらず、古着っぽいロンTにハーフパンツと、スポーティーな格好がよく似合っていた。
剥き出しの健康的な足はあらゆるシーンに映えそうで、清涼飲料水の宣伝とかやれば売れそうだな。スタッフというより撮られる側の方がしっくりくる。
まあ、そんな話はおいといて。
……さて、どうしたものか。
なぜ雷架がいるのかは定かではないが、コイツはhikariの正体が陰キャ系男子高校生の晴間光輝だという、世間に隠している残念な事実を知らない。
もちろん、わざわざ教える必要はないと思っている。
意外にもカメラ女子だった雷架とは、雨宮さんを被写体に撮影会をした縁で、それなりに仲良くはしているものの……秘密を明かして俺が得する要素がこれといってなかった。
hikariの正体が実はクラスメイトだなんて、青天の霹靂的真相を知ったところで、雷架側もどうこうする気はないだろうし。
よってこの局面は、正体バレを避けて無難に乗り越えたい。
ただそうなると、危惧すべきはコイツの動物並みの直感力だ。
かつて美少女に変身した雨宮さんを、的確に見抜いたその勘のよさは伊達じゃない。
お馬鹿娘だからって侮れない、いやマジで。
でもその部屋には、さっさと俺も入らなきゃいけないため、雷架に声を掛けて退いてもらう必要がある。
くそっ、虹色にさえ絡まれなければ、雷架がどっか行くまで待ったものを!
「あ……あー……ごめんなさい、そこの部屋に入りたいから、少し通してくれないかしら?」
コホンッと咳払いをして、再び女声を作る。
一日に二回もこの技を使うことになろうとは……。
「わわっ! ごめんなさい、すぐ退きます……って、えー!? うそうそ、まさかhikari!? あの美少女モデルの!?」
雷架はドングリのような瞳をキラッキラにさせて、俺の存在に食いついた。
「わー! 生hikariヤバッ! 可愛い過ぎじゃん、人間ですか!?」
「に、人間ですけど……」
「同じジンルイとは思えなーい! 浴衣サイコーです! 運良く会えたとか、明日お友達に自慢できちゃうよっ! あ、握手はOK?」
「そ、それくらいなら……」
「感激ー! ネイルも可愛い!」
反応が、ザ・陽キャのそれだ。
きゅっとノリで握手を交わせば、俺の爪に施された、黒い蝶が舞うネイルに目敏く気付いた雷架。
すぐ剥がせるようにネイルチップだが、なかなか目のつけどころがいい。
「えへへっ、握手までしてもらっちゃった! 雷架ちゃんついてる! 世界的美少女は中身も完璧でシンセツなんですね!」
「ま、まあね?」
テンション高く俺を絶賛する雷架に、正直悪い気はしない。
時間と心に余裕があれば、もっとファンサをしてやりたいくらいだ。(女装した)俺の浴衣姿は最高だよな、わかる。
しかし、これ以上騒がれても収拾がつかないため、俺は再び退くよう催促しようとしたのだが……。
「んんんんん? というかhikariさん、誰かに似ている?」
いつかのデジャブ。
雷架が俺の顔を覗き込みながら、首を大きく傾げ始めたため、俺はギクリと体を強張らせる。





