11 なぜかいる雷架さん
さて、俺が試した……というか、ココロさんに勝手に試された『チャイボーグメイク』とは、チャイナ✕サイボーグの略である。
まるでサイボーグみたく、人間からかけ離れた美しさを出してチャイナ美女にする、個性的なメイクだ。
俺(hikari)のケアを怠らない玉のお肌をさらに陶器のように仕上げ、それこそビームでも出そうなくらい目元をかなり強調した。
テーマが“カッコ可愛い女の子”であったため、そのメイクに合わせて服はパンツスタイル。
淡いピンクのダブルジャケットに白シャツ、グレーのテーパードパンツという上級コーデを難なく着こなし、飴色の髪をポニーテールにした俺は、まさにテーマを体現していたと思われる。
いつもよりクールな表情とポーズを意識して、冷たい眼差しもカメラに向けた。
「新しい扉が開きそう」
とは、そんな俺を撮ってくれたカメラマンさんのお言葉だ。
その時の雑誌掲載された写真とインタビューを、虹色はバッチリ見事に読んでいたと……。
「あの雑誌は普段のアメアメ発行のものではなく、他社のゲスト記事ですし……逐一私を追っていないと、そもそも目に触れないと思うのですが……」
「ドキィッ!」
いや今コイツ、口で心臓が鳴る効果音言ったぞ。
思ったより愉快な奴だぞ。
しかし、私を追ってないと……というのは本当で、アレはお試しなところもあって、そこまで大々的なプロモも打っていない。
あ、hikariマニアな雨宮さんは当然のように知っていたけどな。
「晴間くん……私、新しい扉が開きそうになっちゃったかも……」とモジモジしていて、大変可愛いかったが、その扉はどうか閉じたままにしておいて欲しい。
「べっ、別にハナは、あんたの情報を毎日SNSでチェックしていないし、hikariの非公式ファンクラブに入ってもいないし、あんたのアクリルスタンドも部屋に飾っていないんだから! 勘違いしないでよ!」
「……そう」
筋金入りですね、把握。
屈折しているとはいえ、ファンはファン。
優しくしてあげたいところだが……。
「虹色さんが私に憧れていることは把握しました」
「憧れてない!」
「ですがそれとこれとは話が別、迷惑かけたことはきちんと謝罪しましょうね」
美少女の圧を意図的に強めて微笑めば、途端に虹色はたじたじになる。
怒った時の美空姉さんは笑顔でとんでもなく怖いので、そちらも意識した。
虹色は「わ、わかったわよ!」と、ようやく抵抗を止める。
「謝ればいいんでしょ、謝れば!」
「私にだけじゃなく、あとで迷惑かけた人たち全員にね。それで今後は行動を改めること」
「わかったってば!」
虹色は存外、「迷惑おかけして申し訳ありませんでした!」と、きちんと頭を下げて謝罪をした。
なんだ、やればできるじゃないか。
早々に人気が出て持て囃され、ワガママ女王様になってしまったのだろうが……根は更正の余地ありかもしれん。
などとほんのちょっと評価をプラスしたのも束の間、虹色はレースのリボンをひらめかせて逃走を図る。
そして……。
「でもやっぱり、あんたのことなんて大っ嫌い! ファンクラブも退会してやるんだから! ばーか! ばーかばーか!」
好きな子に構ってほしい幼稚園児のような捨て台詞を吐いて、瞬く間に消えていった。
なんだったんだ。
というかやっぱり入ってんのかよ、俺のファンクラブ。絶対退会しないやつじゃん。
通りすがったスタッフさんはポカンとしていたが、俺はドッと疲れた。虹色には今後も会えば絡まれる予感しかしないが、俺はもう関わりたくない。
絶対友達いないだろ、あの娘。
「さっさと行くか」
地声に戻って小さく呟き、気を取り直して撮影へと向かう。無駄な時間を食っちまったな……などと、思っていたら……。
「ん? あれは……」
今度は目的地の部屋のドア前に、なぜか同級生の姿があった。
キラリと光る稲妻マークの髪飾り。
なんで雷架がここにいるんだよっ!?
おかげさまで書籍版、二巻の続刊が決定しました><
ありがとうございます!
発売中の一巻と合わせてそちらもよろしくお願いいたします!





