7 雨宮さんのおねだり
さて、どうしたものか。
生徒会入りを受けるか否か……頭を悩ませながらも、俺と雨宮さんは屋上で昼飯を採っていた。
晴れた日は人の来ないこの穴場スポットで、落ち着いてふたりで食べるのが最近の日常だ。
コンクリートの床を照らす太陽は、日に日に勢いを増している。
会長も言っていたが、試験が終わればもう、今月の終わり頃から夏休みなのだ。
「は、晴間くん、ここ」
「ん?」
「ついているよ……ほら」
ぼけっと考え事をしながら、購買のカツサンドを噛っていた俺は、恥ずかしながらパンのカスが口の端についていたらしい。
それを雨宮さんが、華奢な指先で手際よく取ってくれた。
突然の接触に固まる俺に、雨宮さんは遅れてハッとなる。
「ご、ごごごごめんなさい、私ったら……! 家では霰によくやっていて、幼い感じの晴間くんの一面も可愛いなって思っていたら、ついこんな……!」
「い、いや! 取ってくれてよかったよ、うん!」
弁当箱を膝の上に載せて、テンパりながら弁解する雨宮さん。
俺のカノジョが今日もこんなに可愛い。
御影がこの場にいたら「すっかりバカップルだなあ」と呆れられそうだ。
ちなみに俺たちがお付き合いを始めたことは、学校では御影と雷架だけが知っている。あと雲雀にはそれとなく気付かれていそうなくらいか? 会長にも察せられただろう。
「それで、あの……晴間くんがぼんやりしていたのって、さっきの生徒会室でのことだよね?」
「おう、会長からの申し出をどうするかってな。雨宮さんは?」
「私は……今のところ、受けさせてもらおうかなって」
「……それはやっぱり、お菓子の件につられて?」
「そっ、それもあるけど!」
あるんだ。
冗談交じりだったが、雨宮さんが生徒会入りを決める理由の何%かは、持ち帰り自由の高級菓子が占めているらしい。
箸先で弁当のミニトマトをコロコロさせながら、雨宮さんはモゴモゴと打ち明ける。
「晴間くんのおかげで、少しでも外見は前より磨けたかなって思うけど……な、内面はまだまだだなって。hikariさん目指してもっともっと、自信を持てる女の子になりたいの。晴間くんのカノジョとしても、あの、見劣りしないように……!」
「雨宮さん……」
「だからいろんなことに、どんどん挑戦しなきゃって!」
それで生徒会はいいきっかけだと、そう考えたわけか。
しかしながら、見劣りしないとは……?
すでに校内四大美少女に数えられる雨宮さんの隣で、見劣りするのは確実にただの晴間光輝だが?
まだまだ、雨宮さんは自分に自信は持ちきれていないみたいだ。
だけど確実に、前進して前向きに頑張ろうとしている彼女に、「ああ、好きだなあ」としみじみ感じてしまう。
「わかったよ、雨宮さんがその気なら俺は応援する」
「う、うん! 晴間くんの方は……? やっぱりhikariさん活動が忙しいから、生徒会入りは難しいかな?」
「そうだなあ……断るつもりではあったんたが……」
雨宮さんが生徒会に加入するなら、俺も一緒に入りたいというのは煩悩まみれ過ぎるだろうか?
……と思っていたら、雨宮さんも「ワガママ言っちゃうと、晴間くんと一緒に生徒会に入れたら嬉しい、なんて」とおずおず上目遣いでおねだりされた。
おいおい、可愛いの大安売りだぜ。
あの滅多にワガママを言わない雨宮さんが!





