6 特典に揺れているようです。
生徒会に入る特典。
面倒事の香りがしていて、俺はそれを聞く前からすでに断りたくて仕方なかった。
そもそも生徒会なんて、いくら雨宮さんが俺の魅力とやらを褒めてくれたところで、陰キャの俺には荷が重い。
hikariのモデル活動もあるし、絶対に後々厄介だ。俺は根っこのところで面倒くさがり屋なのだ。
やっと顔の赤みが引いてきた雨宮さんも、たぶん及び腰だと思うのだが……。
「特典はまず当然、内申点が上がるでしょう? それからこの部屋はいつでも自由に使っていいし、日直の仕事なんかも免除されるわ」
会長が並べる特典は、そんなところだろうなあという予想の範疇だ。
うーん、掃除が大変な日直の免除は有難いが、それより大変そうな生徒会に入るのだと、意味があんまり……。
「あと購買部のメニューが全品半額。ここに来れば私が定期的に、美味しいお菓子も差し入れするわ。持ち帰りも自由よ」
「マジすか!?」
「本当ですか!?」
俺と雨宮さんの反応がシンクロした。
俺は全品半額の方、雨宮さんは差し入れの方で。
聞けばお嬢様な会長の親族には、飲食業界の重鎮がいるらしく、購買のパンはそちらが大元なのだとか。
またスイーツ店もいくつか経営していて、なんと俺と雨宮さんが以前、『幻のどら焼』を食べに行ったお店がそうだった。
試しに雲雀が出してくれたクッキーを一枚、雨宮さんと一緒に食べてみると、これは品のいい甘さでクオリティが高い。あのスイーツ店のバイキングで噛ったのと同じ味だ。
「このお菓子が持ち帰り自由……家族へのおやつになるよね……」
家族想いの雨宮さんが、お菓子の特典で揺れている。
雨宮さんシスターズはスイーツ好きそうだもんな。そんなところもいじらしくて可愛い。
「返答は急がないから、夏休みの間にでも考えて頂戴。文化祭までに人手が欲しいという事情もあるの。ねぇ、雲雀ちゃん? あなたもふたりが……特に晴間くんが生徒会入りしてくれたら、とっても嬉しいわよね?」
「べっ! 別に私は……っ!」
黙して紅茶に口をつけようとした雲雀が、会長の適当な発言に珍しく動揺している。
制服のブラウスに紅茶が一滴飛んでいたため、「おいおい、大丈夫か?」と、ハンカチを取り出そうとしたらキッと睨まれた。相変わらず雲雀の地雷はわからない。
「ふふっ、隙がなくて滅多にからかえない雲雀ちゃんを、たくさんからかえて面白いわ」
イイ性格をしている会長が、ふわっと亜麻色のロングヘアーをかき上げる。ソファの上でサラサラと流れる髪。
あれ……?
その時、俺はなんだか違和感を覚えた。
具体的になにがどうとは言えないが、会長のなにかが引っ掛かるというか……。
「晴間くん? どうかした……?」
「あ、ああ、いや」
内心で首を捻っていたら、雨宮さんも俺の方を向いて首を傾げていた。小リスみたいな仕草、ありがとうございます。
「それじゃあーー色好い返事を期待しているわね」
会長の聖母のごとき微笑みと、同時にのし掛かる謎の圧から解放され、俺と雨宮さんは生徒会室を後にした。
書籍版、好評のようで嬉しいです。
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