3 お呼び出しです。
さてさて、雨宮さんと手を繋ぐというワンステップを見事に踏み出し、雨宮さんブラザー&シスターズにこってり絞られた翌日。
午前の授業を滞りなく終え、迎えた昼休み。
俺の教室では何度目かもわからない、ザワつきが広がっていた。
「……というわけでして、雨宮先輩と晴間先輩のおふたりには、生徒会室に来て頂きたいわけです」
「いやいやいや、なにがというわけかサッパリだぞ!」
こちらをツリ目がちな瞳で睨む雲雀に、俺は渾身のツッコミを入れた。
雨宮さんは席に座ったまま、雲雀に見下ろされながらオロオロしている。
せっかく雨宮さんの席で、これから屋上で昼を取ろうかと、楽しく相談していたというのに……。
以前のように、いきなりやってきた雲雀に爆弾を落とされ、俺はより詳しい説明を求む。
「まったく……あの説明で理解できないなんて、晴間先輩の知能はキツネザル以下ですか?」
「キ、キツネザルをバカにすんなよ!」
「バカにしているのは先輩です。まあいいでしょう、端的にもう一度説明しますと、生徒会長がおふたりをご指名なんですよ。どうしても会って話したいことがあるから、昼休みには生徒会室に来るように、と」
「いや、だからな? その生徒会長がご指名な理由を教えて欲しいんだが……」
「行けばわかります」
ツンと顔を背ける雲雀に、これ以上の情報をもらうのは無理そうだ。
雲雀は無事に『集まれ! ロリータガール! 一番可愛いのはあなた★ コーディネートコンテスト』で優勝を果たし、今やロリータ界の期待の星となっている。
さすらいの美少女ロリータちゃんが毒舌の暗雲姫なことは、普段とギャップがありすぎて、いまだ誰にもバレていないようだ。そこは俺と同じだな。
雲雀は「先輩のおかげ……だとは思っていますよ、ありがとうございます」と、珍しく素直に感謝の意を俺に示してくれた。
そんなこんなで、たまにこっそり俺とふたりでロリータ談義をする時などは、毒は控えてわりと懐いてくれているものの……公衆の面前だとこの毒っぷりである。
まあ以前よりは、怖いと俺もビビったりはしないけども!
「生徒会長さんって、三年の嵐ヶ丘先輩だよね……は、晴間くんは直接会ったことある?」
雨宮さんの質問に、俺は「ないな」と首を横に振る。
嵐ヶ丘小百合といえば、雷架、雲雀、雨宮さんと並ぶ、四大美少女の最後のひとりでもある。
清楚で品のいいお姉様だということは聞いたことがあるが、残念ながら全校集会などで遠目でしか見たことはない。
会長を勤めるくらいなので、人望も厚いのだろうが……。
「……会長は、悪い人ではありません。たまに少々、悪戯好きといいますか、愉快犯なところがあって困りますが、尊敬に値する人です」
「へぇ、意外な一面もあるんだな。しかも雲雀がそんなふうに認める相手とは」
「晴間先輩のことも……私は認めていないことも、ないですけど」
んん?
つまりどっちだ?
「むしろ尊敬とか認めるとかは越えており、つまり私は先輩のことが……」
ほんのり頬を染めて、唇をむにゃむにゃさせる雲雀。
俺が首を傾げていると、キッと睨んできた。
やっぱり怖い!
「とにかく伝えましたからっ。必ず放課後、お願い致しますね」
小声で「先輩のばか」と俺をディスって、雲雀は長い黒髪を靡かせて去っていった。
「やっぱり雲雀さんって、晴間くんのこと……」
「俺がなんだ? 雨宮さん」
「う、ううん! 晴間くんは気にしないで!」
慌てたように、雨宮さんはブンブン両手を顔の前で振った。
そんな俺たちを遠くから、御影が生暖かい目で見ていたが、あの腹立つ眼差しの意味は不明だ。
そんなことより、今は考えるべき問題がある。
「……で、どうしようか。生徒会長からの『お呼び出し』は」





