24 ここから始める
人間、外からあまりにも強い刺激を受けると、叫ぶとか慄くとかする前に、言葉を失って身体機能もろくに動かなくなるらしい。
俺はまさかの雨宮さんからの告白に、その圧倒的な可愛さの暴力に、無言のままただただ立ち尽くしていた。
そんな俺をどう捉えたのか、雨宮さんが眉を下げて悲しそうな顔をする。
「ご、ごめん……やっぱり迷惑、だよね。私じゃまだ、キラキラと眩しい太陽みたいな晴間くんには、つり合わないっていうか……」
「え……い、いや、ちがっ!」
「でも私、本当にごめんなさい……簡単には諦められそうになくて……っ! 晴間くんの彼女にしてもらえるまで、もっと可愛くなってみせるから、だから……っ」
「違う! 違うんだよ、雨宮さん!」
密度の高い睫毛を伏せた、雨宮さんの声は震えている。
瞳が潤んでいるように見えたのは、きっと見間違えなんかじゃない。
それでも必死に言い募ろうとする健気さに、俺はようやく我に返った。俺が間抜けにも呆けていたせいで、雨宮さんに悲しい想いを一瞬でもさせたことが、自分で自分を許せない。
というか『晴間くんの彼女にしてもらえるまで』とか言わなかったか?
幻聴か?
可愛すぎる!
「俺も……俺も、君が好きだ!」
雨宮さんへの可愛いゲージが溜まったところで、気付けば俺は叫んでいた。傘の中で上ずった大声が反響する。
バッと、雨宮さんが俯いていた顔を上げた。
全身に火がついたように熱いが、ここからは感情の赴くままに伝えるのみだ!
「キラキラと眩しくて、太陽みたいなのは雨宮さんの方だ! 俺の方こそ、hikariにならなきゃただの陰キャな地味男だし、自分以外の女の子を可愛いと思えない厄介な病気持ちだった! その俺を変えたのが雨宮さんなんだよ!」
「そ、そんな、私は太陽なんて……」
「いいや、雨宮さんは俺の太陽だ! むしろ太陽以上だ! 世界で一番可愛いくて輝いている! 自覚するのは遅れた情けない俺だけど、ずっと好きだった! だから俺の方からも言わせてくれて……彼女になってくれませんかお願いします!」
最後は雨宮さんの敬語が多少うつって、なんか情けない懇願になってしまった。勢いで頭も下げたので、まるでフラれた後に縋るみっともない男だ。
やっぱりただの『光輝』な俺じゃ、決めるとこも決められないな。
しかもフラれた後って縁起でもない……いいや、フラれていない、俺はフラれていないぞ!
俺は雨宮さんに告られたし、今俺からも告った!
雨宮さんは先ほどの俺と一緒で、言葉を失ってピクリとも動かなくなっている。
だがじわじわと、徐々にその頬はピンク色に染まっていった。化粧が控え目だからか、うっすらチークが乗ったみたいになっている。
そして蚊の鳴くような声量で、「今の……本当?」と尋ねられる。
「私は……晴間くんの彼女に、こ、恋人に、なってもいいの?」
「恋びっ!? そ、そっか、恋人か……その響き、めちゃくちゃいいな……なろう、ぜひ! 付き合おう、俺たち!」
「つ、付き合う……その響きもすごくいいね……う、うん、付き合いたいです」
俺も雨宮さんも、心のキャパシティーオーバーでいっぱいいっぱいなことは、向き合っていればすぐわかる。
お互いの必死さに、俺たちは次いで同時に吹き出した。
「ははっ……なんか俺たち、スマートな『恋人同士』にはなれそうにないな」
「う、うん……でも、私はなんでもいいよ。晴間くんと一緒にいられるなら」
「それは俺もだよ。改めてこれからよろしくな、雨宮さん」
「こちらこそよろしくね、晴間くん」
お付き合いを始めたなら、手をつなぐとか、抱き締めるとか、ほらアレ……キ、キスとかしてもいいものかと、一瞬欲望が頭をよぎるものの、照れたように縮こまる雨宮さんが可愛すぎて、今はもう横にいるだけで俺は満たされてしまった。
ヘタレって脳内で喚いているのは、ココロさんか雲雀かな……。
「あ、晴間くん見て! 空が……」
「おっ」
言われて、傘を避けて空を仰ぐ。
いつの間にか雲は遠ざかり、雨は上がって青空が覗いていた。
雨宮さんの前髪を彩る、俺のあげた雫型のピンが、日差しを受けてキラリと光る。
「晴れたね」と笑う雨宮さんは、本日付で俺の彼女になったわけだが、変わらずやっぱり世界一で可愛いかった。
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