23 ジンクスと告白
「ジンクス?」
「今日がね、この公園の噴水が建てられた日で、この日のうちに噴水の前で好きな人に告白すると、恋が叶うんだって。ネットでも調べたら出てきたんだ。噴水の中に妖精の像があって、その妖精が『恋の妖精』で、応援してくれるとかなんとか……」
『恋』、というワードに変に動揺しかけたことは、ひとまず置いといて。
言われてみればここの公園自体、デートスポットとして有名だ。そんなジンクスがあったからなんだろうか。
しかし、像なんてあったか? と思って、横目でチラッと確認する。
公園の名物でもある噴水は、池の真ん中に三段ケーキのようなオブジェがあって、その天辺からから水が噴き出している仕様だ。
その三段ケーキの二段目にポツンと、白い石作りの妖精が確かにいた。
ふんわりしたドレスを纏った髪の長い女性が、その髪を水で洗っているような像だ。背中には広げた四枚の羽。
どことなく、さっきまでの白いロリータ服を着た雲雀を彷彿とさせる……あれも『森の妖精さん』がテーマだしな。
なんか、アイツに背中を押されているみたいだと思うのは、勝手な妄想だろうか?
告白するならさっさとしろって。
いや、雲雀が言うなら「怖気づいたんですか? もたもたしていてみっともないですね、先輩」くらいの毒を飛ばしそうだ。
俺をここに送り出してくれたアイツは、今頃コンテストの結果発表中かな。いい結果が出ているといいな。
雲雀に嘲笑われないように、俺も腹を括る時が来たようだ。
よし……と、強く拳を握る。
言うぞ、俺は、雨宮さんに。『好きです』って、手始めにシンプルに。
妖精が応援してくれているなんて最高のシチュエーションだ、今しかない。
「あっ! あのさ、雨宮さん……!」
「さっきまでいろんな人たちが、ここで告白して本当に成功していて……みんな幸せそうでね。羨ましいな、いいな、私も頑張らなきゃって、思った」
「え……」
俺が言い切る前に、雨宮さんが先に動いた。
意味ありげな言葉と共に、俺の方をくるっと向き直る。揺れるミディアムボブの髪は艶やかで、雨宮さんが俺のアドバイスを守って、しっかり手入れしていることが伝わってくる。
そしてバランスの取れた可愛い顔には、なにか決意のような感情が浮かんでいた。
自然と、俺は緊張で喉が上下する。
「えっとね……本当は今日、晴間くんとお洋服やアクセサリーを見るショッピングとかして、どら焼きの美味しいお店に行って、あちこち回った後に、最後にもう一度ここに来てもらうつもりだったの。その間に私のこと、少しでもたくさん……す、す、す、好きになってもらって、勝算を上げてから告白したいなって」
「勝算……告白って……」
脳の処理が追い付かない。
雨宮さんはなにを言っている? 俺はなにを言われている?
「私が前に『変わりたい』って願ったこと……きっと晴間くんなら覚えているよね」
「あ、ああ……うん」
「相変わらず私は地味で、後ろ向きで、たいした自信もないけど、それでも『前の私』より、私は『今の私』が好き。それは間違いなく、いつも眩しい晴間くんのおかげだよ。そう思ったら、じっとしていられなくなって……だから小夏ちゃんからこの噴水の話を聞いた時、絶対に今日伝えようって、決めました」
雨宮さんは緊張すると敬語が入る。彼女らしい可愛い癖だ。
そうか、雨宮さんも俺と同じで緊張しているんだな。
雨音さえ遠退くほど、自分の心臓の音がうるさい。馬鹿野郎、雨宮さんの言葉を聞き逃すだろうが。いったん止まってろ……って、それだと死ぬな。俺もたいがい混乱している。
震える声で、雨宮さんが「晴間くん」と改まったように名前を呼んだ。
「前にも言ったけどね、この先も私だけを見ていてください……」
言われなくても、俺は雨宮さんから目が離せないんだよ。
あの日、放課後の誰もいない教室の汚いロッカーの中で、その素の笑顔を初めて見た日から、俺は雨宮さんだけを目で追っているんだ。
そして彼女は、俺の言いたかったことを先に言ってしまう。
「私は晴間くんのことが……好きです」





