21 雨の中、走る女装男子
イベントタイムは、結論から言えば大成功で終わった。
hikariがロリータ姿でステージに立ったんだ、当然すぎるほど当然の結論である。
審査員はバタフライ畠山さんまでスタンディングオベーションだし、配信も俺が出た途端にコメントが急増して、視聴者数も跳ね上がった。
出番はたったの十五分程度だったんだが、SNSではトレンドにも上がっていたらしい。
まあ、これも当然といえば当然だな。hikari(俺)だからな。
後からチラッと見た、配信のコメントやSNSの書き込みはこんな感じ。
『ロリータちゃんたちのコンテスト見ていたら、なぜかhikariちゃんが出てるんだが!?』
『hikariちゃんのロリータ可愛いhikariちゃんのロリータ可愛いhikariちゃんのロリータ可愛いhikariちゃんのロリータ可愛いhikariちゃんのロリータ可愛い……』
『待ってどこから見れるのそれ!? そのコンテストの配信先教えて!』
『激レア映像! hikariのロリータ!』
『ハートモチーフのロリ服可愛い~! 私も欲しい!』
そんな大盛り上がりの民衆の中で、俺的に気になるコメントもいくつか……。
『というか今回のファッションテーマ、「恋する女の子」って……hikariちゃん、本当に誰かに恋してるみたい。雰囲気がそんな感じ!』
『なんか前より可愛くなった???』
『恋する女の子感出てる! ステキ!』
……このへんはもう、鋭いとしか言いようがない。
ファンを侮っちゃいけないな。
ぶっちゃけステージに立っている間、俺は雨宮さんのことしか考えていなかった。
早く会いに行って、伝えたいことは山のようにある。
雨宮さんには笑っていて欲しいし、できればその可愛い笑顔は、俺にだけ向けられていて欲しい。
だけどやっぱり、雨宮さんの最高の可愛いさは、世界中に発信して自慢したい気持ちもあるから、俺の女装男子心はいつだって複雑だ。
その複雑さも含めて、この感情を世間は『恋』と呼ぶらしい。
もう痛いほど自覚したから。
「……信号、早く変わってくれ!」
ステージが終わった後。
俺は秒でhikariの変身を解き、ココロさんへの挨拶もそこそこに、コンテスト会場から出て雨宮さんの待つ自然公園へと走った。
距離的にバスやタクシーを使うより、徒歩が一番早いと思って。
だけど慌てすぎた俺はスマホを楽屋にうっかり忘れ、今は渡れば公園の入り口はすぐそこという交差点の前で、信号機に捕まっているところだ。
ここの赤信号、長いんだよな。
焦る想いに反して足は止められ、俺は焦れったくて歯噛みする。
しかも……。
「うわっ!? マジかよ!?」
ポツポツ……と、空から無数の雨粒が落ちてきた。
皮膚を伝う汗に雨が混じる。
今日の天気は一日晴れじゃなかったのか?
天気予報のバカ野郎め!
「くそっ、雨宮さんは濡れてないよな……!?」
まだ小雨とはいえ、下手をしたら彼女が風邪をひいてしまう。俺はいいんだよ、健康優良児だから。
雨宮さんが運良く傘を持ってきているか、すぐ軒下にでも避難してくれていることを願うばかりだ。
スマホがないの、マジ不便だな。
おそらくココロさんが回収してくれてると思うが、己のうっかり加減を呪わざるを得ない。
ますます早く会って、雨宮さんの安否を確認しなければ……!
「よし!」
ようやく信号が変わり、俺は再び駆け出す。
緑あふれる公園の中に入れば、突然の雨に足早になる人たちがそこそこいた。そんな人たちの間を抜けて、待ち合わせ場所である噴水を目指す。
丸いレトロ調な噴水の前には、折り畳み式っぽい青の傘をさした雨宮さんが立っていた。
「ーー雨宮さん!」





