20 『恋』とはどんなもの?
「れ、れんあいかんじょうで、すき……?」
「なにポカンとしているんですか。先輩が雨宮先輩に抱く感情は、世間一般で言うところの『恋』というものです。わ、私も現在進行形でしておりますが……間違いありません」
雲雀は一瞬、恥じらうような表情を見せるものの、俺は叩き付けられた言葉の数々にただただ困惑している。
恋愛感情。
それってどんなものだ?
「……まさか『恋』がわからないなんて、ポンコツロボットのようなこと言いませんよね?」
「えっ……い、いやぁ……正直、幼い頃から姉さんに女装させられて、思春期真っ只中にはhikariデビューしちまったから、そこから『俺が一番可愛い病』を発症していてさ……」
たぶん俺って初恋もまだ、だよな?
御影は小学校の担任の先生が初恋だったらしいけど、俺はその頃も姉さんに「コウちゃんが世界一可愛いわー!」ともてはやされていた。両親からもだ。
そっちである意味たくさんの愛情を受けていた分、あまり恋愛方面に興味が向かなかったのだ。
俺の曖昧な返答に、雲雀は眉をつり上げる。
「まったくハッキリしておりませんね、イラつきます。『恋』というのは、その人と付き合いたいだとか、行く行くは結婚したいだとか……」
「結婚!?」
「うるさい、最後まで聞いてください」
ぴしゃりと容赦なく、俺を強制的に黙らせる雲雀。
なんかさっきからやたらと当たりが強いな……。
「馬鹿な先輩のために、もっとわかりやすく言いましょうか? ……その人と、ずっと一緒にいたいってことですよ」
どこか悔しげに雲雀が口にしたことは、奇しくも先ほど、ココロさんに問われた内容と重なった。
俺はなんて答えた?
確か俺は、雨宮さんとずっと一緒にいられたら、幸せなんじゃないかってすんなり答えたよな。
ああ……なんだ、そうか。
俺は雨宮さんに、『恋』をしているのか。
一度理解してしまえば、その事実はとてもすんなり受け入れられた。
ストンと、自分の真ん中に『雨宮さんへの恋愛感情』が、明確な輪郭を持って綺麗に収まる。
ココロさんのアシストと、雲雀に答えを出されなきゃ気付かないなんて……ふたりにバカと罵られまくっても仕方ないな。
「……ありがとうな、雲雀。お前のおかげで、大切なことに気付けたみたいだ」
「それはどうも。……告白、とかするんですか」
「そっか……恋愛感情に気付いたなら、次はそれだよな」
俺は今すぐにでも、雨宮さんに会いに行ってこの気持ちを伝えたい。
どんな反応が返ってくるか……まったくわからないしかなり怖いが、言わずにはいられそうにないくらい、鼓動が逸っている。心臓がふたつもみっつもあるみたいにうるさかった。
ただひとつ、懸念があるとすれば……。
「雨宮さんは女神のように優しいからなあ。俺がフラれる可能性も十分あるとして、そのときは変に悩んで気負わなきゃいいけど……」
「……優しいのは晴間先輩もでしょう。それにそんな可能性は……ほぼないと思いますけど」
「いや、普通にあるだろ? 今や校内ナンバーワン美少女で、性格よし頭よし運動苦手なのも可愛くてよし、あのモテて当然の雨宮さんだぞ? すでに別の奴が好きだったりして……あー! ムリだ! ツラい! 想像だけでツラすぎる!」
かつてない感情にこれまた振り回され、俺は廊下の真ん中でしゃがんでしまう。
それでもhikariの姿なので、しゃがみ方も豪快ではなく、あくまで可憐におしとやかに。身に付いた習慣だ。
そんな俺に、雲雀は「さっさと立ってください」と冷ややに命じた。やっぱり当たりキツいの、勘違いじゃないよな?
だけど立ち上がった俺に、雲雀は呆れたような仕方なさそうな、どちらにせよレアな微笑みを向けてくる。
「似合わない鬱陶しい落ち込み方は、すぐさま止めた方がいいかと。自信のない晴間先輩なんて、ただの地味な陰キャ女装男子ですよ」
「言い返せねぇけど酷いな……」
「だから自信を持って……雨宮さんに告白したらどうです? 私もケジメ、つけたいですし」
なんで雲雀がケジメ? と思ったが、静かな笑みを前に聞くのは野暮な気がして、俺は「おう」と頷くに留めた。
このイベントタイムが終わったら、速攻で雨宮さんのもとへ行く。
そこで、雨宮さんに告る。玉砕覚悟だ!
決意を固めた俺は、もう一度雲雀に礼を告げ、「コンテストの結果は速報で報せろよ」とだけ念を押して別れた。
最後に雲雀がなにか呟いたが、声が小さすぎて聞き取れず……でもさすがに時間が差し迫っていて、俺は今度こそステージへと向かった。
待っていてくれよな、雨宮さん。
次回は雲雀視点です!





