14 予定は決まりました。
一斉に顔を合わせた俺と雨宮さんに、雲雀は怪訝そうに眉を潜める。
「なんですか……もしやその日、おふたりの間で先約が? でしたら当然ですが、私のことは気にせずそちらを優先してください。もとよりコンテストにはひとりで挑むつもりでしたし、後出しは私の方でしょう」
「あー……いやまあ、そうなんだが……」
「ダ、ダメだよ! 大事なコンテストなんでしょっ?」
どうしたものかと返答に窮する俺に、異を唱えたのは雨宮さんだ。小さく拳を握って、雲雀に切々と訴える。
「コンテストに晴間くんが必要なら、私の約束こそ気にしないで! その……べ、別にそこまで、その日にこだわっているわけでもないんだ。コンテストの方が貴重な機会でしょう? ねっ?」
「……いえ、雨宮先輩たちの約束の内容は知りませんが、なにやら大切な日であることは察せられます。後から予定を入れた私のために、雨宮先輩が遠慮をしないでください」
「こ、この際、先とか後とか関係ないんじゃないかな? 雲雀さんのコンテストの方が優先だと思う!」
「雨宮先輩たちの約束の方が優先です」
「晴間くんはコンテストに行くべきだよ!」
「晴間先輩は先の約束を果たすべきです」
おおう。
なんということか、美少女たちは俺の譲り合いをしている。
『奪い合い』ではなく『譲り合い』なことがポイントだ。いい子たちなんだよなあ、基本的にどっちも。
俺はものすごく微妙な立場だが……。
しかしながら、俺としても雨宮さんとの約束は守りたい。彼女はこだわっているわけではないと言ったが、わざわざ二ヶ月前から約束を取り付けるくらいだ。
俺も概要はまだほとんど知らされておらず、集合場所が例のたい焼き事件があった公園だということしか決まっていないが、きっと雲雀の指摘した通り、雨宮さんにとって大切な『なにか』がある日なんだろう。それに俺も絡んでいるわけだ。
だが雲雀のコンテストが心配なのも事実で……ふむ。
「雲雀、コンテストは何時から何時までの予定だ?」
「開始は午後一時から……間の休憩時間やイベントタイムも含めて、夕方頃までですね。このイベントタイムとやらが、なんなのか当日までシークレットらしいですが。ただステージパフォーマンスの準備をするなら、参加者は午前から会場入りする必要があるかと」
「それなら俺が手伝える範囲は、雲雀の出番がいつかにもよるが、長引いても十五時までくらいには終わりそうだな……」
次いでくるっと、俺は雨宮さんに向き直り、手を合わせて申し訳なさ100%で交渉する。
「雨宮さん、一日空ける約束だったのにめちゃくちゃ申し訳ないんだが、雲雀のコンテストが落ち着いてから、落ち合うのでも大丈夫か……? 絶対絶対絶対、終わり次第全速力でそっちに行くから!」
「わ、私はそれでいいけど……晴間くんが大変じゃないかな? それに雲雀さんの傍にも、最後までいてあげなくていいの……?」
どこまでも気遣いを見せる雨宮さんに、雲雀が「逆に結果発表まで晴間先輩にいられたら、どんな結果であろうと居たたまれません」と、わざと突き放すことを言う。
え、わざとだよな? ガチか?
「むしろ本当にそれでいいのか、私が雨宮先輩に問いたいのですが……」
「いいよ、いいよ! 私もコンテスト、配信で応援しているね!」
いっそコンテスト会場に雨宮さんも来られたらよかったんだが、あいにくと現場は関係者登録が必要だ。俺もしなきゃな。
雨宮さんが見ているなら、俺もますます気合いを入れないといけない。
そして雲雀の出番が終わったら、雨宮さんのもとに直行だ!
ーーこうして俺はその日、雨宮さんと雲雀、どちらの予定もこなすことになった。
それにしても……雨宮さんがその日を選んだ理由ってなんだろうな? 雨宮さんの誕生日とかではないはずだし、俺関係でなんかあったっけ?
雨宮さんが当日まで秘密にしていたいなら、聞くような野暮なことはしないが……。
俺が首を捻っている間に、雨宮さんと雲雀は仲良くお喋りをしている。
「でも本当に、さっきの写真可愛いかったね! 雲雀さんのキリッとした普段とはまた違う、新しい魅力を知っちゃったなって……あ、ごめん! こんな言い回しは馴れ馴れしくて失礼だよね」
「そんなことは、別に……。雨宮先輩もインタビューを受けて頂いたときより、今日はくだけて話しやすい印象でした」
「あ、あのときは緊張していたから……」
「それもあるでしょうが……晴間先輩といるときの雨宮先輩は、素の可愛らしさがより出るのだと思い知らされました」
「ええっ!? そ、それってどういう……!」
アワアワ慌てる雨宮さんには聞こえない声量で、雲雀は「……本当に、私が奪える相手ならよかったのに」と呟いた。
俺は呟きを拾えてしまったが、意味はよくわからなかった。雲雀のことはまだまだ理解不足だ。
とりあえず、慌てる雨宮さんも可愛いな!





