12 雲雀さんと雨宮さん
美少女に
ハグされ固まる
いとをかし
こうき
……思わず心の一句を詠んでしまった。
俺は相当混乱している。
だがそろそろ正気に戻らなければ!
「た、頼む雲雀! とりあえずいったん、いったん離れてくれ!」
「……え? あっ!」
俺の懇願に雲雀もやっと我に返ったのか、目を極限まで真ん丸にしている。そして物凄い素早さで俺から距離を取った。警戒している黒猫感がある。
最初は本人も「わ、私は、なんて不埒なことを……!」と慌てふためいている様子だったが、そこはさすがのクールを通り越してツンドラ系美少女。すぐに冷静さを取り繕ってスン……と真顔になる。
「……上級生のクラスまで来ておいて、みっともなくも取り乱しました。お騒がせして申し訳ありません」
「い、いや、俺はいいけどさ、結局なんだったんだ? いったいお前になにがあったんだよ?」
「ここでは少し話しづらい……例のことですので、出来れば場所を変えたいです」
雲雀が声を潜めて言う『例のこと』といえば、ひとつしかない。
ロリータコンテストのことだろうが、なんかスパイみたいな言い方だ。
そういえばちょっと前に、写真やミニ作文といった一次審査用の書類を送ったな。その選考の結果がそろそろ出る頃だった気もする。俺も結果は気になるところだ。
「そういうことならいいぜ、行こう! 旧校舎の方にでも移動するか。ごめんな雨宮さん、少しだけ待っていてくれるか?」
「えっと、その……そ、それって、私もついていっちゃダメかな……?」
雨宮さんのことだから、申し訳ないが快く待っていてくれるだろうと思いきや、意外な申し出に俺は少々驚く。彼女は「このままじゃ、晴間くんが取られちゃう……」と小さく呟いていて、なにやら必死な様子だ。
その呟きを拾った雲雀が、ピクリと微かに反応する。
取られるって、まさか……命か?
さすがに雲雀も、俺の命までは取らないと思うから心配しないでいいのだが……。
「違う、そういうことじゃないぞ、光輝」
「なんだよ、御影。俺の思考でも読んだのかよ」
「恋愛回路が死んでるお前の思考なんて、親友の俺には丸わかりだ。罪な女装男子だな、お前は。はあ……もういいから、雨宮さんに聞かれてもいい話なら、連れていってやれよ」
そう耳打ちされても、こればかりは雲雀の許可がないといけない。俺個人としては、いつも控え目な雨宮さんのお願いだ、なんでも叶えてやりたいところだけどな。
雲雀はしばし、考える素振りを見せる。
「……雨宮先輩だけなら、いいですよ。私の秘密を言いふらすような人ではないことは、インタビューを受けてもらった時点でわかっています。知ったからといって秘密を笑う……そんな人でもないでしょう」
「あ、ありがとう、雲雀さん! 無理言ってごめんね……」
「いえ……」
澄んだ瞳でお礼と謝罪を口にする雨宮さんに対し、雲雀はなんとなく複雑な表情だ。
そうか、このふたりは面識があるんだったな。
美少女ふたりが対面して会話する様子に、クラスメイトはホッコリした空気だ。まあ、確かに目の保養だし癒されるよな。
ここに「今日は新作カメラの発売日なのー!」と勇んで、すでに爆速で帰ってしまった雷架が加われば、まさに花園だっただろう。
むしろ俺がhikariになって加わりたいくらいだ。
「じゃあ、場所を移すぞ」
そうして俺と雲雀、それから雨宮さんは、御影に見送られて旧校舎の空き教室へと移動した。ここは机も椅子もなにもなくて、本当にまっさらな空間だ。
どことなく緊張した面持ちの雲雀と俺が向かい合い、俺のすぐ後ろでは雨宮さんがそわそわしている。
そわそわ雨宮さんも可愛い。
行動のひとつひとつが愛らしいんだよなあ、うんうん。
「本題から手短に言うと……『集まれ! ロリータガール! 一番可愛いのはあなた★ コーディネートコンテスト』の一次審査、どうにか通過致しました」
「おおっ!」
雲雀が見せてくれたスマホには、通過のお知らせメールが表示されていた。
俺が歓声をあげて「すごいじゃないか! やったな!」と純粋に喜べば、雲雀も心なしか照れたようにはにかむ。
「ロ、ロリータ……? ごめんなさい、私ったら無知でわからなくて……」
おおう、雨宮さんはまさかのロリータ自体をご存知ないのか。
まあ雨宮さんは、なんでも着こなすだろう可愛さを持ちながらも、本人自体はファッションに疎い方だもんな。かつてのとんでもファッションを思い出し、俺は納得する。
どう説明したもんかと悩んでいると、雲雀が雨宮さんのもとに進み出た。
「ロリータとは……こういう服です」





