11 雲雀さん来襲
「は、晴間くん、今日も一緒に帰ってくれる……?」
放課後の教室。
夕陽が窓から差し込む室内は、帰り支度をしながらも、友人同士で会話に花を咲かせる者たちばかりで騒がしい。
かくいう俺も、御影と俺の席でくだらない話をしていたのだが、そこにおずおずと雨宮さんがやってきた。
「れ、連日だし、私とばっかりで……イヤ、かな?」
「そんなことは未来永劫ないから安心してくれ、雨宮さん」
もちろん、可愛い雨宮さんと帰れるなら返事は即OKだ。
「じゃあ俺も、彼女を迎えに行って帰ろうかな。お互い下校デートってことで。……上手くやれよ? 光輝」
「上手くってなんだよ」
「なんだ、雨宮さんはお前の『俺最強可愛い病』を治してくれた女神だろうが。このチャンスを逃すなってこと」
気を効かせたつもりなのか、御影が俺の肩をポンと叩いて先に出て行こうとする。
ニヤニヤ顔がちょっと腹立つぞ。それでもイケメンなのがもっと腹立つ。
しかし、御影が出て行く前に、廊下から謎のざわめきが聞こえてきた。
「ん? なんかあったのか?」「さあ……」と、俺と御影は顔を見合わせ、雨宮さんはきょとんと首を傾げている(はい、可愛い)。
ざわめきはどんどん大きくなって、スパンッ! とうちの教室のドアが勢いよく開かれる。
「失礼致します――晴間先輩はいらっしゃいますか」
なんとビックリ。
現れたのは雲雀だった。
「なんで一年の雲雀がここに……?」
しかもお人形のような整ったお顔は、普段から無表情で冷たい印象だが、今は鬼気迫った悪鬼羅刹みたいな形相になっている。
黒髪の艶やかなロングストレートヘアも、心なしかメデューサのようにうねってないか?
なにが言いたいかってとても怖い。
俺、なんかしたかっ!?
「ど、どうして『猛毒の暗雲姫』がわざわざ……」
「というかまた晴間かよ!?」
「なんだアイツの美少女を引き寄せる吸引力! 羨ましいブラックホールだな!」
「おい、間近で見たら暗雲姫めちゃめちゃ可愛いくね?」
四大美少女の、それもめったに会えない後輩の雲雀の登場で、一気にお祭り状態となる男子たち。一部の俺への嫉妬の視線は無視だ。奴等は雲雀の怖さをなにもわかっちゃいない。
女子も女子で「わぁ、雲雀さんって顔ちっちゃーい」「肌キレイかっ! 化粧水なに使ってんのか教えてー!」「マジ男子はうるさすぎ」と各々反応を示している。
ちなみに念のためチェックしたところ、雲雀御用達の化粧水は、ココロさんがアドバイザーを務める化粧品ブランドのものだ。
品質は最高で、もち肌を保つには悪くない選択だ。
ロリータ界の一番を競うコンテストで戦うには、お肌のケアも大切だからな!
「見つけました」
教室中から注目を一身に集めながらも、当の雲雀は有象無象など歯牙にもかけない。
俺とバッチリ目が合うと、一直線にこちらに向かってきた。
「お、おいおい光輝! お前いったい、暗雲姫になにしたんだよ!」
「なんもしてねぇよ! 心当たりがあるとすればナイトクリームは効果が微妙なブランドだったから、無理やり先日変えさせたくらいだ!」
「いや本当になにしてんだ、お前!?」
御影の鋭いツッコミが飛ぶ。
なんだどうした、あの変更後のナイトクリームが気に入らなかったのか!?
俺の隣では、雨宮さんが「は、晴間くん……」と不安そうに上目遣いでこっちを見ている。クソッ、謎にピンチな状況でも可愛い!
そうこうしているうちに、雲雀は俺の真ん前で来ていた。
「晴間先輩……」
「は、はい」
後輩相手にピンと背を正す俺。
雲雀はよく見れば頬がうっすら上気して、唇もプルプル震えている。その片手にはなぜかキツくスマホが握られていた。
そしてゆっくり、雲雀が口を開く。
「私……私、やりました」
やりました? なにを?
……殺りました? ついに誰かを!?
「うおぅっ!?」
そんな失礼極まりないことを考えていたら、いきなり雲雀にガバッと正面から抱き着かれた。小柄な体が隙間なく密着して、雲雀のイメージよりもずいぶんと爽やかな、だけどよく似合うシトラス系の香りがふわりと鼻孔を撫でる。
目を白黒させる雨宮さん。
俺も白黒だし、御影もクラスメイトの皆さんも白黒だ。モノクロ映画みたいだな。
じゃなくて……誰か、なにが起きているか説明してくれないかっ!?





