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【書籍3巻&コミカライズ連載中】世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。  作者: 編乃肌
三章

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9 雨宮さんのお願い

 なんだ? 

 この浮かれたコンテストは。


 チラシに軽く目を通せば、要は一番『可愛い』ロリータガールを決める、一般人向けのコンテストのようだが……。


「これに出るのか? 雲雀が?」

「……いけませんか」

「いけなくないから睨むなって! むしろ俺はいいと思うぞ、こういうの。可愛いさにあえて優劣をつける、素晴らしい趣旨の祭りだ。俺が出たら確実に場を荒らすな、可愛いすぎて」

「先輩もたいがいおかしいですよね」


 クリームソーダをすする雲雀に失礼なことを言われたが、このくらいで傷つく精神は持ち合わせてないぜ。


 パッと、雲雀の唇がストローから離される。


「別に先輩のようなモデルになりたいとか、そんなことは考えていません。……将来の夢は、別に一応ありますし。ただこのコンテストで、自分の趣味に自信を持ちたいというか……一度だけでいいから、とびっきりの『可愛い』を目指してみたいんです。そして誰かに、認めてもらいたい」

「雲雀……」


 上向きの睫毛がフルリと揺れる。


 俺は雲雀の切実なその想いに感銘を受けた。

 世界の可愛い代表・hikariとして、可愛くなりたい女の子は全面支援しなくてはいけないと、妙な責任感がムクムクと沸いてくる。


「そ、それで少し、先輩にアドバイスをもらえたらと……」

「いや、どうせやるなら天辺を目指そう、雲雀」

「……は」


 ガシッと、俺は雲雀の白魚のような手を取った。


 雲雀は怜悧な印象のツリ目をまん丸と見開く。そうすると大人びた綺麗系の美少女フェイスが、少し幼い印象になる。


「俺が全面的にバックアップしてプロデュースする。hikariのプロデュースだ、コンテスト一位の座を必ずお前にやってみせる」

「そこまでしなくてもいいのですが……ま、まあ、先輩が進んで手伝ってくださるというのなら……」


 ハキハキ喋る雲雀らしくなく、ごにょごにょと「よろしく、お願い、します」と頼まれる。


 ああ、任せろ。

 俺は可愛くなりたい女の子の味方だ。



 ――こうして俺は、コンテストで結果を残すまで、雷架の次は雲雀と、またもや四大美少女の手助けをすることになったのだ。



 ※



 ざわざわと放課後になってやかましい教室。

 じゃあなと御影と手を振り合い、一方的にブンブンと元気いっぱいに手を振ってくる「小学生か?」と突っ込みたくなる雷架に苦笑で返し、俺は雨宮さんと当たり前のようにふたりで下校する。


 今日の空模様は小雨だから、俺も雨宮さんも傘をさして移動中だ。


「そ、それでね、そのとき澪ちゃんがね、霞ちゃんにボディーブローを決めようとしたんだけど、霞ちゃんは華麗に避けて足払いをかけて、マウントをとろうとしたところでやっと、慌てて零くんが止めに入ってくれたの」

「プリンひとつを勝手に食べられたってだけで、そんな血の気の多い喧嘩もするんだな、雨宮さんツインズは……」


 雨宮さんが姉弟の微笑ましい……いや、わりとバイオレンスな喧嘩エピソードを話して、俺は歩きながらその話に耳を傾ける。



 姉弟が大好きな雨宮さんは、内容はどうあれ一生懸命に語るから可愛い。

 とても平和だ。



「あっ、ご、ごめんね! また私が好きな話しちゃって……つまんないよね?」

「いや、いいよ。雨宮さんの話なら俺は永遠に聞けるし」


 素直な返答をしただけだが、雨宮さんは「晴間くんって絶対にモテるよね……」なんて柔らかな頬をほんのり染める。


 モテないけどな。

 ただの晴間くんは。


「そういえば晴間くんに、私のお家に来て欲しいって話なんだけど……ほら、この前の日曜日は、晴間くんが忙しかった日の……次はいつなら空いているかな?」


 おずおずと傘の下から、不安そうに聞いてくる雨宮さんに、俺は即座に「いつでも!」と答えたくなった。

 ただでさえもう一回すでに、仕事でロリータを着るために雨宮さんからのお誘いを断っているのだ。重罪だ。すでに極刑が確定しているくらいの。



 だけどまた、またまたごめん、本当にごめん雨宮さん……!



「それがな、しばらく予定が空きそうになくて……」

「も、もしかして、お仕事がとっても忙しいのっ? 大丈夫?」

「仕事、では、ないんだけど……」


 そう、仕事じゃない。

 ただしばらくは、意外と近かったコンテストの一次審査の〆切日までに、雲雀を完璧な『可愛いロリータガール』にするために時間を使わなくていけないのだ。


 プロデュースすると約束したからには、手を抜けない。


 でも雲雀のことは秘密だから、雨宮さんに事情を説明できないのが苦しいところだ。


 優しくて聡い雨宮さんは、そんなの俺の苦悩も察して控え目な笑みを作る。


「無理に理由は言わなくていいよ。ざんねん……というか、ちょっとさみしい、けど、予定が空いたらまたお願いしたいな」

「それはもちろん!」

「で、でもあのね、ひとつだけワガママ言ってもいいですか……?」

「なんでも言ってくれ!」

「どうしても再来月の三週目の土曜日だけ……そこだけは、私と一緒に行って欲しいところがあるの。ダメかな?」


 再来月の三週目の土曜日?

 わりと先だが、なにかあるのか? その日。


 わからないけど、コンテスト関係も一次審査が終わればいったん落ち着くだろうし、仕事もいまのところない。


「わかった、死んでも空けとくよ」

「し、死なないでね! ありがとう、じゃあその日はよろしくね」



 そう言う雨宮さんの瞳には、なにやら決意のようなものがこもっていた。


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【お知らせ】
GCN文庫様より、2025年1/20に第3巻発売決定、詳細は活動報告に☘
コミカライズも連載中☘

書き下ろしシーンも盛り沢山!なによりイラストが素晴らしい(◍>◡<◍)
なにとぞよろしくお願い致します!
― 新着の感想 ―
[一言] この念押し、そこまでされると当日絶対来れなくなるんだろうなぁと思ってしまうよねって。
[良い点] 使命感からの人助け、ただそれが心優しい彼女を傷付けることに繋がらなければいいのですが。 [一言] 雨宮家、どうして長女がここまで大人しいのにやっていけてるんでしょうね。
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