13 雨宮さんの中学時代?
「と、とにかく! ふたりはもう出て! 別の部屋に行っていて!」
「ダメだよ、まだ62点のやつと雫姉をふたりにはできないよ!」
「そうだよ、こんな65点のやつと!」
霞ちゃんと澪ちゃんにそれぞれ指差しつきで罵られるが、これでも点数は上がった方だ。
雨宮さんに「晴間くんに失礼なこと言っちゃダメ! いいから出るの!」とダメ押しされ、ようやく双子はしぶしぶドアに向かう。
しかし、俺をキッと睨むことは忘れない。
「私たち、見張っているからね。なにかあったら報復するから」
「私たちの報復は怖いんだから」
そんな捨て台詞と共にパタリと閉まるドア。
雨宮さんが「ご、ごめんね、晴間くん……妹たちが失礼なことばかり……」と小さく謝りながら、ラグの上にお盆を置く。俺たちも向かい合せでラグに座った。
「いいよ、小学生の言うことだし気にしてないから。報復ってのもたいしたことないだろうし……」
「で、でもあの子たち、ここらへんの小学校の全学年をシメていて、他校の子からも『第一小の女番長』と『第一小の女帝』って呼ばれているくらいだから、とんでもない報復をしそうで……」
「なにそれ怖い」
雨宮さんシスターズやべえな。
「もしかして、弟くんたちもそんな感じか……?」
「し、下の弟はまだ小さいから! でもあの、上の弟はちょっと私に過保護っていうか、心配性っていうか……わ、私が頼りないのがいけないんだけど……」
「弟もヤバそうだな……」
雨宮さんのごきょうだいは、みんな雨宮さんが大好きなんだな。
それは雨宮さんが家族を大切にしているからだろう。
「だ、大丈夫! 晴間くんはいい人だって、もっとみんなに言い聞かせておくよ!」
「それはよろしくお願いします……というかそれって、また雨宮さん家に来てもいいってことか?」
「えっ!? あ、う、うん。晴間くんさえよければ……」
照れたように俯く雨宮さんは可愛いが、そうかまた来てもいいのかと俺も照れてしまい、そろって口を閉ざし、沈黙が落ちる。
今さらだが、ここは雨宮さんの家で、今は部屋でふたりきり。
そりゃ、女番長と女帝も警戒するわけだ。もしこの部屋が雨宮さんのマイルームだったら、俺は小学生女子に容赦なくフルボッコにされていたかもしれない。
彼女の部屋はちょっと気になったが、欲を出さないでよかった……。
「ん?」
視線を逸らした先で、棚の上に置かれた写真立てが目に入る。
家の前で撮った家族写真のようだが、お母さまも含めてごきょうだい全員、雨宮さんにそっくりじゃないか。つまり全員、清楚な美貌を持つ美男美女。
雨宮さん家の遺伝子強いな。
なによりSSレアなことに、写真の中の雨宮さんはおそらくまだ中学生のようだ。
いや、雨宮さんの中学時代なんてSSSSSSレアだ。
今よりちょっと幼い感じがめっちゃ可愛い。
長い前髪や、自信なさげに下を向いているところは今と同じ。
だけど……。
「この頃の雨宮さんは、眼鏡は掛けていないんだな」
「あ……うん。この頃は前髪も、顔を隠すというより、切る暇がなくて伸ばしていただけで……眼鏡をかけるようになったのは……」
雨宮さんはきゅっと唇を噛む。
なにか心の準備をしているようなので、俺は余計なことは言わずに次の言葉を待った。
ただ心の片隅では、雨宮さんに関係する『ろくでもない男子』とやらが、俺が壊してしまったあの分厚い眼鏡を、雨宮さんに掛けさせた要因ではないかと推測を立てていた。
それはきっと、正解だ。
雨宮さんは準備が整ったようで、顔を上げてじっと俺を見据えてくる。
「く、暗い話になっちゃうんだけど、話してもいいかな?」
「雨宮さんこそ、いいのか? 話すのが辛かったら別に無理しなくていいんだぞ?」
「ううん、辛いけど……晴間くんに聞いて欲しいの」
そして雨宮さんは、震える唇で過去の話をゆっくり語り出した。





